一章 八話

着物の裾を肩までまくり、筋肉質とは行かないが腕相撲大会があればそれなりに勝ち進むだろうと思わせる量の筋肉がついた腕を露出させ、戦闘体勢にはいる。

一番最初に近づいてきた死体の一人を離れていく恋人を引き止める時のように手首を掴み引き寄せる。

その勢いのまま右腕を平行に突き出し相手の首へ肩を叩きつける。

死体は頭から地面に倒れ動かなくなる。

右足でそいつの胸を軋む音がするまで踏みつける。

苦しそうに俺の右足首を掴む死体の頭部を両手で包み込み一周ねじる。

「ゴキガギゴリリグシャ」

気持ちの良い音と振動と共に頭を手に入れた。

首級みしるしの髪を持ち踊るように振り回す。

他の近づいてきた死体たちは後退りを始める。

中には頭部が当たり腕を落とすもの、胸部に当たり絶命するものも居た。


左にはあの槍が刺さった死体がいる。

そいつに手にある頭部を投げつける。と、同時にそいつに向かって走る。

槍持ち死体は頭部を綺麗に両手で捕球する。槍持ちの死体に近づき身を低く懐に入る。

そして左手で槍を掴み右の拳で顎を殴り上げる。

顎がその衝撃に耐えられず天井にカツンとぶつかる。

槍持ちは白目を向いたまま後ろに倒れ込む。が、槍が刺さっているので倒れられない。


振り上げた拳を開き両手で槍を掴む。


そして思い切り引っこ抜く。

「どさり…カラン」

本体が倒れ顎もその死体のすぐそばに落ちる。


槍を引き抜いたらあとは槍遊びを楽しむだけ。


足を薙ぎ払い転んだ死体を踏みつけ殺す。

骨ももろく、霜柱を崩す時のように愉快だった。


「アギャ!」


「ヒェー!」


「グェー!」


俺も殺戮を楽しんでいる中、巣を襲われた小鳥のような甲高い断絶魔を聞く。

途中、口角が上がっているのに気づく。


半分以上倒したとき、思い至る。


俺は強くなった。どんな逆境だろうとへこたれず立ち向かえた。

ただやられるだけの餓鬼じゃない。


守りたいものも守れる。


そして、家族を殺したやつと同じになっているということに。





戦いは夜明けまで続いた。

薪につられて屋外に出ていった奴らのことも追いかけ野外での戦闘にも発展した。

途中で刀も拾い鬼に金棒だった。

吹雪も止み、足元にはやっと死体になれた"犠牲者"の山の頂から日の出をみた。

太陽を浴びた時、目に大量の光が入り込み頭がクラクラし始める。

視界が暗くなる。なぜだ?外はこんなにも明るいのに。



まあ、夜更かししたからかな。



中に入り寝よう…。


フッと力が抜けその場に倒れ込んだ。


また 夢を見た。



綺麗な雪と同じ色した肌と腰まであるみどりの髪

そして、氷のように冷たい瞳。


まるで雪女のような美女が吹雪を背負い迫ってくる。


確か、雪女の物語は…、母に聞いたことがある。


寝る前に聞いて妹と一緒に怖くて泣いたっけ。男が雪女に恋をして殺されるんだ。


残酷で惨くて、そして、切ない物語。


それから泣き疲れて朝を迎える。


昔は空想の中だけだと思ってた雪を一度見てみたいと思っていた。


雪女は手の甲で俺の頬をそっと撫でる。

その手は母の最期の手みたいに冷たく、大きかった。

俺を家族のもとへ連れていってくれるのかな。








俺の意識はここで完全になくなる。

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