第3話 追放Ⅲ 女性恐怖症
目を覚ますとそこには見覚えのない高い天井があった。ここは……貴族のお屋敷? そんなところで、なんでわたしは寝てるんだっけ。
「ようやく目を覚ましましたか」
ベッドに寝かされていたわたしを覗き込んでいたらしい、燕尾服に身を包んだ中性っぽい顔立ちの男の子と目が合う。水色の髪に日没直前の太陽のように真っ赤で、透き通った瞳。そんな彼の容姿を、わたしは一瞬だけ、美しいと思っちゃった。
「ここは……」
「ここはラベンドルト辺境伯のお屋敷の一室です。領内で瀕死の状態だったあなたのことをボク達のご主人様が屋敷まで運び込み、治療したんですよ。申し遅れました、ボクはソラ。ランベンドルト辺境伯の側近の執事です」
瀕死の……まだ記憶が混沌としていてうまく思い出せないけど、まあ助けてもらったことは間違いないみたい。
「……見ず知らずのわたしのことを助けてくれてありがとうございます。そのご主人様にもお礼を言いたいのですけれど、お会いすることできますか? 」
わたしの申し出にソラは肩を竦める。
「そんな改まらなくてもうちの主人だったら自分から飛び込んでくると思いますよ。あなたが目覚めるのをずっとお待ちでしたから」
ソラがそう言い終わるか言い終わらないかと言う時だった。
勢いよく部屋の扉が開け放たれて誰かが中に飛び込んでくる。
「騎士様が目を覚ましたってほんと? 」
腰まで伸ばしたピンク色の髪、空のような透き通った蒼い瞳。淡い水色のドレスが髪色とよく似あっている。そんな彼女が視界に入った瞬間。
ガタっ
鈍い音をたててわたしはベッドから転げ落ちちゃう。そして全身の毛は恐怖で逆立っていた。
そんなわたしの奇怪な行動にピンク髪の少女は心配そうな表情で走って近寄ってくる。
「ど、どうしたの勇者様? 」
でもわたしは……。
「そ、それ以上近づかないでください! 」
気づいたらヒステリックに叫んでいた。
「えっ? 」
訳がわからない、という表情になるピンク髪の少女。自分でも勝手に怯えて、相手に対する申し訳なさがなくはない。でも、恐怖は理屈じゃないから仕方ない。だって……。
「わ、わたし、お、女の人が、怖いんです……だ、だから、それ以上近づかないで……」
恐怖を必死に押し殺してなんとか絞り出したわたしの説明。それにピンク髪の少女は絶句する。
それから暫くして。
「えっ、でも……あなただって女の子じゃん」
ピンク髪の少女の言葉にわたしははっとする。
恐る恐る窓ガラスの方を見る。そこに映っていたのは腰まで届きそうなくらいの若竹色の長い髪、檸檬色の瞳、そして極めつけは――これでもかと女性性を強調する豊満な胸を持った、どこからどう見ても女の子。
――わたしも、わたしを痛めつけ、犯し、殺したあの人達と同じ、女の子……。
そこのことに気付いた瞬間。
「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」
部屋に、わたしの絶叫が響き渡った。
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