2.成り上がり
□■□
「ぐるる……!」
「ひっ……!」
俺がワープさせられた隣国ロクトス王国にあるメウナ樹海には、獰猛な魔物達がひしめいていた。今そいつらは俺を、獲物を見る目で睨みつけている。
パーティの皆に殴られてふらふらの身体で何とか逃げるものの、数も多くて捕まってしまうのも時間の問題だ。一体一体もかなり強く、当然俺の剣技でも太刀打ちが出来ない。
正直、もう駄目だと思っていた。
「嫌だ、死にたくない! どうすれば、どうすれば……!」
しかしにじり寄って来る魔物達に剣を向けたまま後さずりしていた時、俺は重い物を落としてしまう。
それは、ワープさせられる直前にクロナさんから「読めないゴミ」だと投げつけられた本だった。
彼女達の嘲笑を思い出すので正直見たくもないものだったが、せめて投げたり盾にでも使えないかと一応持っていたのだ。
落とした拍子にページがめくれ、その中身を見た時俺は驚愕した。
確かに何も書かれていなかったページに、急に不思議な力で文字が浮かび上がっているではないか。
「なん、だ……これ。魔法の、詠唱……?」
もう凄い数で俺を取り囲んでいる魔物達は目の前まで来ていて、次の瞬間には喰らいつかれるだろう。何かをしてもしなくてもどうせ殺される。
最早なりふりは構っていられず、俺はすがるような思いで書かれていた詠唱を読み上げていた。
「『アイシクルストーム』!!」
直後、俺の周囲に巨大な氷風の竜巻が巻き起こる。俺の肉を求めてびっしりと群がっていた魔物達は成すすべなくそれに巻き込まれ、あっという間に全部凍り付いて絶命してしまった。
「……は……?」
間一髪で命が助かったというのに、俺はただ茫然とするしかなかった。
なんだ、今の凄まじい魔法は。俺が撃ったのか? パーティの皆からは「荷物運びもろくに出来ない、何も出来ない無能の役立たず」だと言われていた、この俺が?
それ以降も大した脅威はなかった。樹海の出口に向けて進む俺に何度も魔物が襲い掛かってきたものの、本に次々と浮かび上がってくる詠唱を唱える度に強力な魔法が発動し、彼らを簡単に退けていく。
結局俺は、有数の超危険地帯とまで言われていたメウナ樹海をたった一人で簡単に脱出してしまうのだった。
□■□
樹海を脱出した俺は、近くにあったロクトス王国の王都に来ていた。発展具合や規模としては、元々クロナさん達といたエウス国王都とさほど変わりはない。
真っ先に俺が訪れていたのは、アイテムの鑑定屋だ。そこの主人である老人にゴミだと押し付けられた例の本を見せると、彼は目をむいて驚いた。
「お、おお……! これはとんでもなく強い魔法が記されている、この世界でも唯一無二の超貴重な魔導書じゃよ! その強力過ぎる魔法故、天賦の才能あるものしかここに書かれている魔法の文字は読めんのじゃ! お主、これをどこで手に入れたのじゃ……!?」
とんでもない高額でその魔導書を買い取ると提案してくれた老人の折角の提案を断り、俺はその本を抱えたままふらふらと店の前に出る。
クロナさんがゴミだと押し付けてきたこの本に、それほどの価値があったことにも大いに驚きだ。だが、それよりも――
「――俺には、この凄い魔導書にも選ばれるほどの魔法使いの才能があったのか? クロナさんの『天眼』ですら見抜けなかった才能が、この俺に? 嘘だろ? ……はは、ははははは……ッ!」
俺の口からは、自分でもなんとも形容しがたい笑いが漏れていた。
□■□
その日から、俺の生活は激変した。
まずは数日かけて、この魔導書を穴が開くほど何度も読んだ。浮かび上がった詠唱を必死に俺は覚え、ついにはこの魔導書がなくともそこに書かれている魔法を全て使えるようになっていた。
覚えた魔法は、どれも最強クラスの魔法ばかりだった。心機一転ロクトス王国でソロの冒険者として活動を始めたが、依頼の先々で敵の魔物をどれも難なく倒せてしまうレベルだ。
以前の荷物運び時代とは打って変わって俺の仕事はあり得ないほどに快調。冒険者としてのレベルもあっという間に上げていき、受けられるクエストの難易度もどんどん上がり、それに応じて報酬だってどんどん上がっていく。
手に入れたお金で、俺は更に高額な魔導書を買い漁っては没頭して読みまくっていた。どんなに高度な魔法が記されている魔導書も、俺には例外なく全て読むことが出来てしまった。
そもそも難解な本を読むという行為自体が少なからず苦痛を伴うものではあったが……以前の地道な努力癖が、まさかこんな形で役に立とうとは以前の俺は思ってもみなかっただろう。
強力な攻撃魔法だって多く習得したし、リーシャさんが使っていたようなワープは勿論、その他の便利な補助魔法だってばんばん習得していった。
依頼をこなして、魔導書を買って新しい魔法を習得して、更に難しい依頼をこなして、更に難しい魔導書を買って、更に強力な新しい魔法を習得して――
そんなひたすらに好循環を繰り返し続けて、約一年後。
「「「おはようございます、大魔導士ロイ様!!」」」
早朝にロクトス王国王都の冒険者ギルドに訪れると、俺はその場にいた他の冒険者達全員から声を揃えて頭を下げられる。
「ああ、おはようみんな。今日もお互い、依頼をこなして頑張っていこうか」
何を隠そう。俺は全国の冒険者の中でも十人といないほどの最高峰、かつてのパーティーメンバー達の称号であった「S級冒険者」すらも凌駕する、――「SS級冒険者」へと成り上がってしまっていた。
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