「荷物運びすらろくに出来ない君はクビだ」と冷酷な女リーダーからパーティを追放された俺、その後魔導士としての超絶な才能を開花させた一方で、彼女達のパーティは指名手配されていたのでお返しに壊滅させてやった

@marumarupa

1.パーティ追放

 □■□


「ロイ、荷物運びすらろくに出来ない君はクビだ」


 ある日突然、俺ことかけだし冒険者ロイが所属しているパーティのリーダー、凛々しい女騎士クロナにパーティの拠点へ呼び出されて言われた言葉がそれだった。


「……は!? な、なんでですかクロナさん!? 俺、一生懸命にパーティの雑務として、荷物運びを頑張っているのに……!」


 俺は言葉としてはそう抗議の声を発しているものの、余りにも大きなショックを受けたために思考が全然動いていない。まるで、いきなり頭を殴られたかのようにくらくらしている。


 俺が、クビ? 憧れのクロナさん直々に、俺はそう言われてしまったのか?


「はぁ!? お前は頭の出来も本当に悪いなぁ、ロイ! クロナも言っている通り、非力なお前はその荷物運びすらもまともに出来てないだろうが! いつもちんたら荷車を引いて歩きやがってよお!」


 クロナさんの代わりにそうがんを飛ばして来たのは、弓使いの男性ゾンドさんだ。


「そうそう! あたし達のパーティ『コカリマ』の主活動あんたも知ってるよねえ! 依頼物資の安全な搬送よ! 道中の危険な魔物はあたしらが倒してあげているのに……肝心のあんたが遅れてたら論外じゃない!」


 そう高圧的に甲高い声で叫んでいるのは、美しいシスターのリーシャさんだ。


「……ヒ。ほんと使えねぇ……ヒヒ」


 普段あまり喋らない、むきむきの厳つい斧使いであるデスモさんすらもにやにやと俺を見て笑っている。


 俺は今、ここにいるパーティ全員から怒りや侮蔑の視線を向けられていた。


 皆、日々最上位の魔物だって易々と倒せてしまう凄腕のS級冒険者だ。その中でも俺だけは最弱のC級でしかなく、一人ではろくに魔物も倒せないので今は雑用の荷物運びしかやっていない。


 そして彼らの言う通り、貧弱な俺はその重い荷車を引くという単純な力仕事も満足に出来ていなかった。


「……だ、だから……それはこれから、努力で……」

「努力だと? だから前にも言っただろうロイ」


 俯いてしまった俺の前にクロナさんはつかつかとやってくると、無理矢理俺の顔を持ち上げて冷たい目で睨みつけてきた。


「私の才能看破スキル『天眼』を以てしても、君からは何一つ才能を見つけることが出来なかった。そう言ってやっても君は往生際悪く『努力する』などど言って、もう半年は経つんだぞ。はっ。無駄に頑張っていることは認めるが……その結果君は、未だに荷物持ちすらろくに出来ないじゃないか。もううんざりだ、いつまでその無駄な努力を続けるつもりだ、この無能め」


 言葉の端には、嘲笑すら含まれていた。


 クロナさんの「天眼」の力は本物だ。唯一ましだと言われた剣の腕すらも、俺はいくら鍛錬しても全然伸ばすことは出来なかった。彼女の言う通り、俺にはろくな才能がなくていくら努力しようが無駄なのだろう。


 ……でも、こんなのあんまりだ。


 このエウス国王都に上京して、クロナさんに初めて出会った時にその凛々しい美貌に一目ぼれした。俺は彼女に憧れ、共に戦いたいと思った。

 だから俺は、まだ届かないと知りながらも彼女のパーティに入りたいと志願したのだ。


『なに、私のパーティに入りたい? ……止めておけ、過酷な仕事だぞ』


『しつこいな、君も。これだけ冷たくあしらっているのに、物好きな奴がいたものだ。……しょうがない。しかし私は厳しいぞ。少しでも努力を怠ろうものなら、君をこのパーティから追い出すからな』


 そう言葉は厳しいものでも、淡く微笑むクロナさんの顔を思い出して、やはり俺は食い下がらずにはいられない。


「言う通り努力だけは、怠りませんでした。あなたの言う通り、剣の鍛錬も続けました。荷物運びだって、毎日全身の筋肉が動かなくなるくらいに一生懸命やりました。なのに、なんで……」


 突然頭に鈍い衝撃が走り、倒れてしまう。隣にいたゾンドさんに殴られたようだ。


「うじうじうるせえんだよぉ! リーダーがこう言ってんだから大人しく従えよ無能!」

「お、ナイスパンチよゾンド。あたしもちょっといらいらしてたから、蹴らせて……っ!」

「ヒヒ、ヒヒヒ……!!」


 ゾンドさんだけではない、リーシャさんとデスモさんも便乗して倒れている俺をげしげしと容赦無く何度も蹴りつけてきた。


 痛い、痛い、苦しい、辛い、痛い……。


「うう……」

「……」


 そして最後にクロナさんが倒れている俺に近付くと、お腹を思い切り蹴り上げられた。


「あが……っ!」

「私の『天眼』も全くの完璧では無い。ひょっとしたら予測以上になるのではないかと思って、様子見でこのパーティに置いてやったというのに、やはり君はだめだったな。見事に私の僅かな期待を裏切ってくれたな、この……恥さらしが!!」


 続いて、クロナさんは重く硬いものを投げつけて俺の脇腹にぶつけて来た。それは何やら大きな本で、ほぼ鈍器に近いそれの当たりどころが悪ければ俺は死んでいただろう。


「うっ……!」

「うわ、クロナが一番容赦無いな! おいおい〜その本何? めっちゃ痛そうじゃん、ギャハハッ!」

「ふん、つい感情が昂って投げてしまった。この前ダンジョンで拾ったものなんだが、全く読めないゴミ同然の本だから捨てたかったのだ。……お前と同じだな、ロイ。こいつと共に消えろ、二度と私の前に顔を見せるな」

「アハハ、良かったねロイ! リーダーから最後に仕事貰えたじゃん! ゴミがゴミ運び、ウケる!」

「ヒヒ、無様、ヒヒヒ!!」


 ひとしきり笑われた直後、倒れ伏している俺の周囲にリーシャさんの発動した魔法陣が浮かび上がる。ワープの魔法で、俺をどこか遠くへ飛ばすつもりなのだろう。


「そんで、このゴミの行先はどーすんのクロナ?」

「私達のいるこの国に残すことすら虫唾が走る。隣のロクトス王国にあるメウナ樹海の真っ只中にでも捨て置いておけ」

「えーひっど! あそこ、強力な魔物の巣窟じゃん! このクソ雑魚ロイ、そいつらの餌にしちゃうってことね! 了解~!」


 ――なんで、なんで、なんで。


 動かないぼろぼろの身体の中で、ただ涙を垂れ流すだけの頭の中で、そんな言葉を永遠に繰り返す。


 活性化した魔法陣の光は視界を覆い、俺は消えていく。最後にパーティの仲間達の嘲笑を目の当たりにしながら――


「――さらばだ。無能の役立たず、ロイ」


 こうして俺はクロナさん達のパーティを追放され、魔物達の蔓延る森へと強制的に飛ばされるのだった。

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