ショーウィンドウのくまは憧れた外でしあわせを知る
夕山晴
ショーウィンドウのくまは憧れた外でしあわせを知る
ぼくはショーウィンドウに座って外を見る。
晴れた日も雨の日も、雪の日も。
暑い日も寒い日も、虹が見えた日も。
ぬいぐるみのお店ができてからずっと外を見つめていた。
ガラスに映ったぼくの姿は、大きなくまのぬいぐるみ。
外の季節が変わると、ぼくのまわりも様変わりする。
桜が飾られ、浮き輪が置かれ、もみじが敷かれて、サンタクロースの帽子をかぶった。
小さな女の子がショーウィンドウのぼくを指差した。
「ね、ママ! あのくまさん、かわいいなあ」
「あら、ほんとねえ。じゃあクリスマスにプレゼントしようかしら」
「え! やったあ! ありがとう、ママ」
こんなやりとりは何度も見た。
そのたびにぼくは夢をみる。
あたたかい家の中で、家族の笑い声が聞こえて、誰かにぎゅっとしてもらう。
初めて触れる人の体温は、きっと、しあわせな気持ちになれるんだろうなあ。
だけど、大きなくまはお店の飾りで、売り物じゃあない。
やっぱりいくら待っても、小さな女の子もママも手を取ってくれなかった。
代わりに店を出て行くのはいつも、ぼくじゃない新しいくまのぬいぐるみ。
ショーウィンドウにずっといるぼくは、おひさまの光で色褪せてしまった。
出て行くぬいぐるみたちは、みんなきれいな毛並みを持っている。
ぼくもずっと前は自慢だったのに。
こんこんこん
小さな指先がガラスを叩く音。
少し前、ママと一緒にぼくを指差した小さな女の子だった。
後ろから店主と女の子のママの声が聞こえてきた。
「ごめんなさい。交換してほしいなんて」
「いいえ、本当にいいんですか? ずっと飾っていましたから色落ちもしていますし」
「あの子がどうしても、あのショーウィンドウの子じゃないと嫌だって泣くんです。交換してもらえて本当によかったわ」
ショーウィンドウから出されたぼくは、女の子にぎゅっと抱きかかえられた。
ほっぺを赤くした女の子は飛び跳ねるように歩き、そのたびにぼくの毛は揺れた。
外の光を浴びて、色褪せた毛がふたたび輝いたようだった。
家に着き、大きなクリスマスツリーが飾られた部屋で女の子とぼくは向かい合った。
「わたしは、こはるって言うの。あなたの名前はティティね」
そう言って、こはると名乗った女の子はまたぎゅっとしてくれた。
ぼくはただの大きなくまじゃなくて、こはるのくまのティティになったんだ。
今日はクリスマス。ずっと夢にみていた、すごくすてきなプレゼントをもらったんだよ。
ショーウィンドウのくまは憧れた外でしあわせを知る 夕山晴 @yuharu0209
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