第28話 奇妙な石が見つかった


「それじゃ、〝企画〟の内容について大まかに話すで」


 ――あれから数日後、俺とあずさZZZVズィーヴの事務所を訪れていた。


 事務所は赤坂の超高層オフィスビルに入っており、全てがピカピカのキラキラ。

 中はエリートサラリーマンが行き交っていて、俺とあずさは明らかに場違い。


 しかも虎嬢こじょうさんの社長室は真っ赤なカーペットが敷かれてたり、実寸大の虎の剥製が飾られていたり、他にも高級そうなモノがetc、etc……。


 もう恐ろしくて、俺たちは借りてきた猫のようにソファの上で硬直していた。


 ――で、そんな中で〝企画〟の説明を受けたんだけど、内容をまとめると以下の通り。


 ――――今から3日前、東京都と千葉県の県境、江戸川を跨ぐ首都高速道路の付近にDゲートが出現。


 近隣に住んでいたDTuber数名がすぐに突入。

 配信をしつつ妖怪を蹴散らしていたのだが――突然配信が切れ、そのまま行方不明になってしまったという。

 彼らは現在も未帰還であり、おそらく死亡手続きが行われるだろうとのことだ。


 ……正直に言ってしまうと、それだけなら珍しくもない話だ。

 しかし――どうにもその魔力保持者の配信に、ダンジョン内の〝奇妙な石〟が映り込んだというのだ。


 そして〝企画〟の主旨は――俺たちでその石を採ってこい、ということらしい。


「奇妙な石……ですか?」


「そうや。これは一部のダンジョンで見つかる〝妖石ようせき〟っちゅうモンなんやけど、えらい貴重でな。石の中に魔力が封じ込められとる――というより魔力が凝縮した結晶みたいな物なんよ」


「へえ、そんなモノがあるなんて知らなかったです」


「ハジメくんが着けてる〝魔力抑制珠〟だって〝妖石ようせき〟からできてるんやで? それだって安うないんやから」


 あ、そうなんだ。

 それも知らなかった。

 

 ってか安くないって……虎嬢こじょうさんが言うとシャレにならないよ……。

 いつか両親にしっかり恩返ししなきゃ……。


「で、ハジメくんたちにはこの〝妖石ようせき〟を採ってきてほしいねんけど……ただ持ち帰るだけじゃダメや」


「と、言うと?」


「ダンジョンに潜って、探して、採って、脱出する――。工程の全てをしっかり撮影・生配信して、記録動画アーカイブにも残してほしい。そこまでやってOKにしたる」


「それは、DTuberですし撮影はしますけど……」


「あ、あの~……差し出がましいことを言うようですが、妖怪対峙をメインにした方が視聴数も延びるんじゃ……。動画にしても映えますし……」


 あずさが恐る恐る手を上げ、意見する。


 俺も同じことを思った。

 なんで石探しなんて地味なことするんだろう、と。


 意見した彼女を虎嬢こじょうさんはキリッと見つめ、


「……あずさちゃん」


「ひゃ、ひゃい!?」


「いい着眼点やね! 思ったことをちゃんと上司に言えるの、偉いで! 褒めたる! ニャハハ!」


「ど、どうも……?」


「んで答えやけど、この〝企画〟は一般視聴者だけ・・に向けたモノやないんや」


「「……?」」


 首を傾げる俺たち。

 虎嬢こじょうさんは得意気に笑い、


「〝妖石ようせき〟ってのは、海外でめっちゃ高値が付くんよ。グラム当たりの相場は今でも上がり続けてて、ダイヤモンドなんてもう目じゃあらへん。だから、ただ採ってきて売っぱらってもええんやけど……そんなん素人のやることや。ウチはこれにストーリーを付けたい」


「ストーリー……?」


「モノの価値は背景ストーリーによって決まるんやで? 例えば、なんの変哲もないスニーカーをオークションにかけたとする。普通なら二束三文の価値しか付かんけど、有名人――それも歴史的に著名な人物が使った一品物という立札が付けば、どうなるやろ?」


「あ! 私、似た話をネットニュースで見たことあります! 有名なバスケ選手のスニーカーが、海外オークションで1億円以上で落札されたって……!」


「よう知っとるねあずさちゃん。そういうことなんよ」


 虎嬢こじょうさんは扇子をバッと広げる。


 ……ああ、なるほど。

 この人は――〝慈恩じおんハジメが採った妖石ようせき〟を売ろうとしてるんだな。


「気付いたやろ。『いずハジ@チャンネル』――特に慈恩じおんハジメは時の人であり、時代の寵児や。今や世界中の資産家も注目しとる。そのハジメくんが生配信で取った〝妖石ようせき〟となれば、ぎょうさん価値が付くと思てんねん」


「そ、そんなにですか……?」


「そうやねぇ、オークション出せばざっと7~8000万ドルはいくんやない?」


「えっと……それって日本円だと……一、十、百……」


「だいたい100億円相当やね」


「――ひゃっ!?」


 数字の額を聞いたあずさは「あっ、もうダメ……」と白目を剥いて失神する。

 いよいよ脳内で感情を処理し切れなくなったようだ。


「あ、あずさお姉ちゃん! しっかりして!」


「ニャハハ! 肝っ玉はまだまだみたいやね。――さあて」


 パチン!という扇子が閉まる音。

 畳んだ扇子の先端を、虎嬢こじょうさんは俺たちへと向ける。


「一応アンタらは新人やから、コラボって名目で先輩・・を1人同行させたる。収録は明日、日曜の昼12時に開始や。ええな?」


「はっ、はい!」


「んん~いいお返事。それじゃ必ず――〝落滝谷ダンジョン〟から〝妖石ようせき〟を持ち帰るんやで!」


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