第27.5話 意外だった(※爺や視点)


 ――坊っちゃんたちとひと通り話を終えた虎嬢こじょうは、帰路に就くべく高級車リムジンに乗り込もうとする。

 相変わらず悪趣味な車だ。


「……意外であったぞ」


 正門前まで見送りに出たワシは、彼女に向けてそう言う。


「ん~? なにがや?」


「坊っちゃんの答えにお主が納得したことだ。昔のお主は、ああいう大言壮語を嫌っておっただろう」


「〝所詮この世はお金おぜぜが全て。ただ稼げる奴だけが唯一絶対の正義。社会貢献なんてバカのやること〟――ってか? そうやね、50年くらい前のウチは確かにそう言うとったわ」


「……今は違う、と?」


「企業の社長になって、一部上場まで果たして、最大手に会社を成長させて……。そこまで行くとな、稼ぐためには〝大志〟が必要になるものなんよ」


「フッ、昔のお主からは考えられない言葉だ」


「バカにしちゃアカンで? 大企業にとって社会奉仕は必要偽善や。投資と言ってもええな」


 黒スーツの護衛が高級車リムジンのドアを開け、虎嬢こじょうはドカッとソファに座り込む。

 そして護衛がドアを閉める前に、


「――意外っちゅうなら、アンタも意外やったよ」


「ワシが?」


「なんでウチに連絡してきたん? あの子預けるだけなら、もっと別の選択肢もあったやろ?」


「それは……お主が1番信用できたからだ」


「ふぅ~ん?」


「実力・地位共に申し分ないのはお主だけだった」


「へぇ~~~~?」


「……他意はない」


「ま、ええわ。ハジメくんの能力は本物・・やし、会社の業績ぶち上げてくれるの期待して――」


虎嬢こじょう


 彼女の言葉を遮って、名前を呼ぶ。

 かつて志を違え、顔を見るのも嫌だった――けれど数少ない生き残りである、同期の名前を。


 もう、残っていない。

 肩を並べた同期のほとんどがダンジョンで妖怪に食われたか、老いや病に勝てず逝ってしまった。


 どれほど死生観が違ったとしても……今でも〝友〟と呼べるのは、もはや虎嬢こじょうだけなのだ。


 そしてやはり、こやつも伝わっているのだろう。

 坊っちゃんの能力がどれほど時代を――いや、世界を変えてしまうのか。


「あの子を、頼むぞ」


「…………任せえっての、アホ」


 ――高級車リムジンのドアが閉まる。

 最後に見えたのは、そっぽを向いたまま答える彼女の後姿だった。


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