第27話 人生を賭けて


斎門さいもんが連絡してきた時は驚いたわ~。まさか話題の小学生は自分が育ててる~なんて漏らすんやから」


 広げた扇子を揺らし、品定めするように目を細める虎嬢こじょうさん。


 ああ、そうか。

 爺やが連絡を取った〝事務所〟の人って、彼女だったんだな。


「……面接って、なにをするの? 実力を見るとか?」


「ああ、勘違いせんといて。2人の力は配信映像見てよう知っとる。っていうか実力なんて二の次……ぶっちゃけどーでもええねん」


「え……?」


「ウチはタレント事務所や。大事なのは数字す・う・じ♪ 登録者数と視聴数がきっちり稼げるのがなにより重要やねん。強いだけの魔力保持者なんて、おもろないわ」


虎嬢こじょう……坊っちゃんにそういう話はまだ早い」


「なんや斎門さいもん、ウチはこの子を平等かつ対等なビジネスパートナーとした上で言ってるんやで? 可能な限り子供扱いはせん。それとも、やっぱり弟子はかわいいってか?」


「……貴様」


「ウチがよしみや慈善事業でここに来たとでも思うてる? ちゃうで。この子たちが金づるとして飼う価値があるのか……それを確かめに来たんや」


 爺やと不穏な空気になる虎嬢こじょうさん。

 彼女たちが旧知の仲なのは間違いないが……おそらく折り合いがいい方ではなかったのだろう。


 事務所に連絡を取ったことについて、爺やはなんとも悩ましそうな顔をしていたが……なるほどこういうことか。


「魔力保持者を見世物にするのきろうてるようじゃ、貧乏金なしのままやで。――話を戻そか」


「!」


「謎の能力を持つ小学生と、相棒の高校生巫女。配信もバズって話題性は抜群。ハジメくんは器量よしやし、あずさちゃんは……まあメイクすればイケるやろ」


「ふぐっ」


 いつぞやのように、見えない弓矢があずさのハートを貫く。

 オブラートに包んだ言い方がさらに彼女を傷付けたようだ。


 俺はあずさも十分美人だと思うんだけどなぁ……。


「ここまではいい。あとは――〝意志〟と〝飢え〟や」


「〝意志〟と……〝飢え〟……?」


「単刀直入に聞くで。キミらはどうなりたい・・・・・・? DTuberとしてなにを成したい? まずハジメくんから聞かせてほしいねん」


「そ、それは……」


 ――考えたこともなかった。

 俺にとって、DTuberをやる理由は〝楽しい〟から。


 勿論、純粋に妖怪を倒して人々の助けになりたい。

 持って生まれた力を世の中のために役立てたい。

 あとは前世でできなかった人生を歩みたいってのもある。


 でも、それって〝どうなりたいか〟への答えじゃないし……。


 それに虎嬢こじょうさんみたいに拝金主義な人だったら、「僕はDTuberで大成功して大金持ちになりたいです!」みたいに答えた方が印象いい気も……。

 

 うん、そうだな。

 俺も元は社会人。

 前世で空気を読む術は身につけている。

 空気を読む力、マジ大事。


 偉い人にはとりあえず賛同しとけ!って店長も言ってたし、その方向で――


 などと考えていると――背後に隠れていたマリアが、くいくいと裾を引っ張った。


「ハ、ハジメくん、あの……」


 彼女はとても小声で、俺にだけ聞こえるように耳打ちする。


「――こ、こんな感じで、ハジメくんの気持ちを言えば、大丈夫……」


「え? でも……」


「こ、ここで間違えちゃ、ダメ……! 条件・・を、満たすの……!」


 裾を掴む手をブルブルと震わせるマリア。

 どうやらかなり勇気を出して俺に言ってくれたようだ。


 条件――ってのがなにかはよくわからないけど、それ・・って俺が妖怪を倒す理由とほとんど同じでは?

 別に俺自身の気持ちとも矛盾しないし。


 っていうか……それ・・こそが、俺が最終的に行き着くところだろう。


 俺はすぅっと息を吸うと――




「え、えっと……僕はDTuberとして――〝世界中の人々を幸せにしたい〟ですッ!」




 思い切って叫んだ。

 マリアが教えてくれた通りに。


「……ふううぅ~~~~ん? 世界中の、なぁ?」


 虎嬢こじょうさんはやや意外そうな顔して、扇子を揺らす。


「それは、アレか? 社会貢献しようっちゅうワケか?」


「そ、そうです!」


「で、世界中の人々を幸せにするために、具体的になにするん?」


 彼女が聞き返してくると、マリアが少しだけ背中を触る。

 まるで「思ったことを正直に言うの」と背中を押されているようだった。


「ダ、ダンジョンへ潜って、妖怪を倒して、配信とか動画投稿をいっぱいやって……そして世界一――いや宇宙一のDTuberになれば、皆を笑顔で幸せにできると思います!」


「ほほぉ、それめっちゃ大変やと思うねんけど……ハジメくん、どこまでやる気あるんや?」



どこまでも・・・・・! ――人生を賭けて・・・・・・ッ!」



 大声で答えた。


 ――境内の中が、静寂に包まれる。

 そして数秒経過した後、


あずさちゃん、キミも同じ考えなん?」


「ふぇ!? そ、そうですね! 彼と同じ考えです!」


 ガチガチに緊張した彼女は反射的に答える。

 なんか考えるよりも早く言っちゃったみたい。


 もし彼女1人・・・・で面接したら、絶対そんな返答しなさそうだけど。


 すると、


「……ええやん、ロマン・・・やわぁ」


 パチン!と扇子を畳んで、虎嬢こじょうさんが呟いた。


「OKや、合格! 2人共ウチで雇ったる」


 ニャハハっと笑って彼女は言う。

 その言葉に誰より驚いたのはあずさだった。

 

「ほ、本当!? いいんですか!?」


「大好きなんよ~、バカバカしいことをクソ真面目なつらして言える子って~。……ま、カンニング・・・・・はあったみたいやけど?」


 虎嬢こじょうさんは再び俺の傍までやってくると、腰を屈める。

 そして俺の背後に隠れるマリアを見た。


「キミ、どうやら面白い能力・・・・・があるみたいやね? お名前教えてーや」


「……督姫とくひめマリア」


「いい名前やないの。キミもウチ来る?」


 虎嬢こじょうさんが聞くと、マリアはふるふると首を左右に振った。

 まあ彼女の性格からして、タレント事務所は合わないだろうな。


 「そりゃ残念」と肩をすくめた虎嬢こじょうさんは、


「ほんじゃ、2人は今日からZZZVズィーヴ所属のDTuberや。宣伝とか必要機材は全部こっちでなんとかしたるから、今週末さっそくダンジョンへ潜ってもらうで」


「そ、そんなすぐにですか!?」



「勿論♪ キミら向きの〝企画〟が、丁度上がってたとこなんよ」


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