第26話 ここがハジメくんのハウスね


「……吐きそう、やっぱり帰っていい……?」


 現在――あずさは友人たちと別れ、一緒に俺の家へと向かっている。

 その顔は真っ青で、滅茶苦茶に嫌そうだ。


 そりゃそうだよな、ただでさえ爺やに呼び出し食らってるんだし。

 

「ね、ねえマリアちゃん? やっぱり2人だけで遊べば? お姉ちゃん気にしないからさ」


「だ、ダメ……! お姉さんも、来て……!」


「うぅ……」


 かわいくて断れない、という顔で彼女は嘆く。


 わかるよ……マリアのかわいらしさは魔性だよね……。

 俺も拒み切れなかったもん……。


 ――にしても、なんでマリアはあずさウチに連れて来たがるんだ?

 それにさっき、まるであずさが道を通ることをわかってたみたいな……。


 なにか魔法を使っている?

 それとも彼女の固有能力アビリティ・ギフテッドが関係しているのか?

 不思議だ……本人も答えてくれないし。


 そんなことを思いながら帰路を辿り――遂に俺たち3人は、住まいであるお寺の前までやって来る。

 すると――


「……あれ? 車が停まってる」


 お寺の入り口付近に、1台の乗用車が駐車していた。


 ボディをピカピカの金色に塗装した、どデカい高級車リムジン

 見るからに超悪趣味だ。

 ヤ○ザだってこんな車乗らないだろ。


「……」


 なんだろう、お寺に入りたくない。

 自分の家なのに。

 でも入らなきゃ始まらないよなぁ……。


「ねぇ、ハジメくん……これなに?」


「さ、さあ……とりあえず中に入ろう」


 怪訝な顔をするあずさをなだめ、正門を潜る俺たち。

 そこには、


「おお、坊っちゃん。お待ちしておりましたぞ」


 出迎えのために外で待っていてくれた爺やの姿。

 それから――



「――へぇ~? この子が例のハジメくんかいな。かわええわぁ」



 左右に黒スーツの護衛を立たせる、絶世の美女。


 長い赤茶髪キャラメルブラウンヘアーと、虎目石タイガーアイを彷彿とさせる黄色の瞳。

 虎柄の刺繍が施されたド派手な黒チャイナドレスをまとい、首から赤色のロングマフラーをふわりと掛けている。


 服装のせいで腕・腋・足など身体の半分近くが露出しており、それが堪らなくなまめかしい。

 手には扇子を持っていて、それを広げて口元を隠す所作があでやかさに拍車をかける。


 一言で印象を表すと、滅茶苦茶お金持ってそうなエ○い女性。

 ハリウッドのパーティー会場に呼ばれてそうな感じの。


 俺の肉体年齢があと5歳も経ていれば、思わず前屈みになっていたかもしれない。


 しかしそんなつやっぽさ以上に目立つのが、彼女に生えた獣耳と尻尾。

 頭部には△△の耳が2つ、お尻にはひょろりと伸びた細い尻尾が1本。


 どちらも虎模様で、ピコピコ、ひらひらと動いている。

 単なる飾り……ではなさそうだ。


 たぶん魔力で動かしているのだろう。

 この人、魔力保持者だし。


 それも――並外れた魔力量を持った。


 気配だけでわかる、半端じゃなく強い・・

 もしかすると爺やと互角か、あるいは――


 彼女は俺の目の前まで歩いてくると、屈んで目線を合わせる。


「ほうほう、ふむふむ……こりゃホンマ別嬪べっぴんくんやわ。キミ、どうや? ウチの養子にならへん? たぁっぷりかわいがってあげるで~?」


「え、えぇ!? そ、そんなこと言われても困るというか、そのぉ……!」


「坊っちゃん、騙されてはいけませんぞ。そやつ、ワシの同期・・です故」


「…………え?」


「ニャハハ! バラすの早いちゅーねん斎門さいもん


 彼女は八重歯を晒してケタケタと笑うと、スッと立ち上がる。


「初めましてやで、慈恩じおんハジメくん。ウチの名前は豊臣とよとみ虎嬢こじょう。こう見えて80超えのババアやから、変な気おこさんといてな?」


「「「え……えぇ―――――――ッ!?」」」


 愕然とする俺たち3人。


 はっ、80超え!?

 嘘だ! 絶対に嘘だ!

 どう見たってまだ20代にしか見えないのに!


「驚いたやろ~。これぞウチの固有能力アビリティ・ギフテッド仙女泡沫ノンストップ・バブル】! 溢れる魔力が細胞に喝を入れ、永遠の若さを保ち続けるんや! さあ、今夜もサタデーナイトフィーバーやでぇ! フゥー!」


 どこからともなくミラーボールが現れ、七色に光る照明が踊り狂う彼女を照らし出す。

 う~ん、まさにバブリー。

 踊ってない夜を知らなそう。


 この照明も魔法――ではなく黒スーツの護衛さんたちが機材を用意してくれてるんだけど。

 見ているこっちからすると非常にシュールな光景だ。


「……おい虎嬢こじょう。さっさと話を進めぬか」


「おっと、そうやった。そんじゃほいコレ」


 思い出したように、彼女は1枚の名刺を懐から取り出す。

 それを俺へと差し出してくれたのだが――


「あ、どうも。なになに……『株式会社ZZZVズィーヴ代表取締役社長・豊臣とよとみ虎嬢こじょう』……?」


「――ッ!?」


 名刺を見た瞬間、あずさがバッと口元を抑える。

 とてもとても驚いた表情をして。


「? あずさお姉ちゃん?」


「ズ……ズ……ZZZVズィーヴって……日本最大手DTuber事務所の……っ!」


「なんや、知ってんなら話早いわ。丁度2人共もいることやし――」


 虎嬢こじょうさんはパッと扇子を広げると、



「そんじゃ――慈恩じおんハジメ、それから出雲いずもあずさ、今から面接・・始めるで」



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