第23話 登校


 ……大変なことになってしまった。


 まさか――爺やが〝DTuberタレント事務所〟に連絡を取っていたなんて……。


『坊っちゃんにもしものことが起こらぬよう、後ろ盾・・・を付けさせて頂く。不幸にも――いえ、幸いにもワシの知り合いが事務所の取締役をやっておりましてな。後日会いに来るそうです』


 俺の身を案じてくれているのは嬉しいけど、まさかDTuber事務所に入れるとは……。

 マジで予想もしていなかった。

 なんだか話がどんどん大きい方向へ進んでいるような……。


 言い知れぬ不安を抱えながら、俺はランドセルを背負って登校する。

 今の時刻は朝の8時。

 街の中は車が行き交い、出社するサラリーマンや俺以外の学生の姿もちらほら。


 そんな街中を歩いていると、


「おはよ、ハジメくん!」


「あ、あずさお姉ちゃん。おはよう」


 後ろからあずさが走り寄って来た。

 最近はこうして彼女と一緒に登校するのが日課となっている。

 俺の小学校と彼女の高校って、途中まで道が被ってるんだよね。


「い、いや~、今日もいい天気だね! うん、めっちゃいい天気! いい天気過ぎて雪が降りそうなくらい――!」


「……お姉ちゃん、昨日眠れなかったの? 目のクマ酷いよ?」


「……だって、DTubeがあんな話題になっちゃったし。興奮しっぱなしで寝たくても寝れないよぉ……」


「それはまあ、そうだよね……。僕もあんまり寝れなかった」


「昨日LINEでも言ったけど、『いずハジ@チャンネル』の登録者数が50万人を超えちゃって……。も、もう怖くて、今でも手が震えてるの……!」


「お、お姉ちゃん、落ち着いて……」


 ガタガタと手を震わせるあずさ

 無理もない……つい数日前まで登録者数500人とかだったのに、今じゃバズりにバズって50万人……。

 あんまりにもいきなり過ぎるだろ……。

 普通の感性を持ってりゃ怖くなって当然だ。


「友達からのLINEでスマホは鳴り止まないし、親からも色々言われるし……。うぅ、ハジメくんはよく落ち着いてられるね……?」


「アハハ、僕も爺やに色々言われたから……。そうだ、爺やが今度あずさお姉ちゃんを連れてきてって言ってたよ?」


「うげっ……な、なんで?」


「それは――」


 たぶんDTuber事務所のことだろうな。

 俺と一緒に所属してもらうんだと思う。


 あずさは俺にとって、既に赤の他人とは言えない。

 今や彼女も十分過ぎるほど有名になってしまったし、俺をよく知るからこそ彼女の身も危うくなる可能性もある。


 同じ事務所を後ろ盾に付けるのは合理的な判断だろう。

 事務所側だって、チャンネル登録者数50万人超えの彼女を邪険にはすまい。


 ……でも、俺だって事務所の人と会ってからじゃないと詳しい話はわからないし。

 今はまだ黙っておくか。


「よくわかんない。とにかく連れてきてって!」


「……ヤバい、胃が痛い。吐きそう。やっぱりちゃんと保護者の許可貰っとくんだった……」


 顔を真っ青にするあずさ

 表情を見るだけで胃がキリキリと悲鳴を上げているのがわかる。

 も、もうちょっと別の言い方があったかな……?

 

 そうこう話している内に、俺たちはいつもの分かれ道まで辿り着く。

 ここから先の登校ルートは別々だ。


「それじゃねハジメくん。後で連絡するから」


「うん、またねあずさお姉ちゃん!」


 彼女と別れ、小学校へと歩みを進める。


 俺の通っている学校は『紅椿あかつばき小学校』。

 全校生徒は約450人。

 1クラス辺りだいたい25人の生徒がいる。

 どこにでもある都内の小学校って感じだ。


 ――まあ、ぶっちゃけ俺は小学校に興味ない。

 2度目の義務教育だってこともあるし、今時の小学生とは話題が噛み合わないしな。


 基本、学校ではいつも1人ぼっち

 仲のいい友人など皆無だ。


 ……あ~、でもクラスに1人だけいるかな?

 よく話すというか、よく話しかけてくれる子が。


 そんなことを考えながら、俺は自分の〝4年B組〟のドアを開ける。


 すると――その瞬間、俺はワッ!とクラスメイトたちに囲まれた。


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