第22話 爺やはショックですぞ


「……」


「……」


 俺と爺やは道場の中で正座し、面と向かい合う。

 その空気は明らかに気まずく、俺は完全に萎縮してしまう。


「坊っちゃん、爺やがなにを申したいのかはおわかりですな?」


「……DTubeのことについて?」


「そうです。ご両親とは既に話し合いを致しました」


 優しい声ではなく、かといって声を荒げるでもなく、爺やはどこまでも冷静沈着に話す。

 ただ、基本的にこういう時の彼は説教モードだ。


 うぅ……まさか30歳を超えて説教されるとは……。

 いやまあ、あくまで精神年齢の話ではあるけど……。

 ただ幾つになっても、他人から怒られるのは慣れないよなぁ……。


 そりゃ黙ってDTuberやってた俺が悪いし、言い訳もできないけどさ……。


「そ、それで、パパとママはなんて……?」


「そのお話しの前に、幾つか言っておかねばならぬことがあります」


 ピシャリと言う爺や。

 彼は続けて、


「まず最初に、この爺やに黙ってDTuberをやっていたこと」


「……ごめんなさい」


「せめて一言でも言ってくだされば……。爺やに隠し事をしていたなんて、ショックですぞ……! うぅっ……!」


 な、泣き出しちゃった……。

 あの爺やが……。


 こういう場面って説教される方が泣くべきであって、普通逆なのでは……?

 なんだろう、罪悪感が余計に強くなっちゃうよ……。


「そして次に、人前で固有能力アビリティ・ギフテッドを使ったことですが……これは怒ると同時に、坊っちゃんを褒めねばなりません」


「? 褒める……?」


「そうです。映像を見させて頂きましたが、坊っちゃんは捕まった人々を助けるために――〝本当に守りたいモノ〟のために固有能力アビリティ・ギフテッドをお使いになられた」


 爺やはグッと目元を拭い、姿勢を正していつも通りに戻る。

 そして改めて俺を見つめ、


「あれは爺やとの約束を守ってくれた証拠です。それに固有能力アビリティ・ギフテッドのこともずっと秘密にしておられたご様子。その点をきちんと褒めねば、罰が当たってしまいます」


「ええっと……爺やは怒ってるの? 怒ってないの?」


「半々です。怒るのと叱るのは違います故」


「……なんだか難しい」


「ホッホッホ、坊っちゃんにもいずれわかる日が来ましょう。では――ここからが本題です」


 小さく呼吸し、息を整える爺や。

 同時に俺も緊張感を取り戻す。


「坊っちゃんはDTuberをお続けになりたいか? どう考えておられる?」


「僕は……」


「素直におっしゃいなさい。爺やは坊っちゃんの言葉で聞きたいのです」


「僕は――――DTuberを続けたい!」


 思い切って打ち明けた。

 それが、俺の正直な気持ちだったから。


あずさお姉ちゃんと一緒にDTuberをやってて、本当に楽しい・・・って思えたんだ」


「楽……しい……?」


「うん。僕がなにか行動して、視聴者がそれを楽しんでコメントをくれる――。なんだか皆と一つになったような気分になれるんだ。それが凄く楽しい。だから……まだ辞めたくない」


 ――あの一体感と充実感。

 前世では感じることのできなかった喜び。


 うまく言えないけど、配信をしていると〝生きてる〟って思えるんだ。

 前世の俺は、まるで死んだように日々を過ごしていたから。


 ……爺やの言いたいことは、わかってるつもり。

 俺の魔力は人目を引き過ぎる。

 それ目当てに変な奴らに狙われるんじゃないかって、心配してくれてるんだ。

 自分をネットに晒すのは、それ相応のリスクがあるんだぞって。


 だけど、それでも――俺はDTuberでいたい。


 それに土蜘蛛つちぐもを倒せたのも視聴者のお陰だったし……今いきなり辞めちゃうのは、助けてくれたチャンネル登録者の皆への裏切りになっちゃいそうだし。


「楽しい――楽しい、ですか」


「爺や……?」


「初めて聞きましたな。坊っちゃんの口から〝楽しい〟という言葉を」


「え? あれ、そうだっけ?」


「そうですとも。修行中は一度だってそんなこと言わなかったのですぞ? 爺やも精一杯楽しませようと頑張ってたのに」


 オヨヨ、と悲しむ爺や。


 いや……それは楽しませるの意味とベクトルが違うでしょ!

 山の中での訓練とかブービートラップ仕掛けまくったりしてたし……。

 何度死ぬかもと思ったことか……。


 俺が心の中でそんな突っ込みを入れていると――爺やは、口元をほころばせた。


「……あいわかりました。楽しいのであれば、辞めさせるのは無粋というモノですな」


「! もしかして、続けていいの!?」


「ええ、これに関してはご両親の許諾も頂いております」


「パパとママの……?」


「あのお2人は〝ハジメがやりたいと言うならやらせてあげたい〟というご意向をワシに伝えてくださった。これまで親らしいことをなにもしてあげられなかったから、せめてやりたいことは精一杯応援したい、と」


 あの2人が……そんなことを……?

 俺は驚きを隠せなかった。


 正直に言って、両親は俺のことを嫌っているんじゃないかと思っていた。

 自分たちに危害を加える、強大な力を持つ化物だと――。

 だから爺やに預けたと思っていた。


「……悔しいけれど、自分たちに息子を守る力はない。だからどうか、これからも見守ってあげてほしい――と、お2人はワシに頭まで下げて……。そこまで言われては、こちらも応援するのが筋というモノでしょう」


「そっか……そうなんだ。えへへ、後で電話で〝ありがとう〟って伝えなきゃ」


「それがいいですな。きっとお喜びになる。……それはそれとして」


「うん?」


「DTuberを続けるのであれば、1つ条件・・をお付けしたい」


「じょう、けん?」



「ええ――〝事務所〟に所属することです」



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