第16話 オフショット


 そんな挨拶と共に現れたのは、あずさだった。


 彼女は今日も制服姿だが――以前まで来ていた中学制服ではない。

 着用しているのは、新しい高校制服だ。


 俺とあずさが出会ってから、既に2年。

 当時中学2年生だった彼女は高校1年生となり、背丈も延びて少しだけ大人っぽくなった。

 ……俺より背が高いのは納得いかんけど。


 しかし人のことは言えんが、子供の成長ってのは本当に早いよな。

 少し前までお転婆娘って感じだったのに、高校に入った途端に印象が変わるんだから。


「おはよう、あずさお姉ちゃん。時間ぴったりだね」


「フフン、この私ももう高校生。時間を守れる大人のレディなのです! ハジメくんは、私が来るまで修行してたの?」


「うん、固有能力アビリティ・ギフテッドの練習してた。でも中々上手くいかないんだ」


「いいなぁ~固有能力アビリティ・ギフテッド。私も早く自分の能力に気付きたいよぉ~」


 ため息を漏らすあずさ

 彼女は俺と違って、まだ固有能力アビリティ・ギフテッドを自覚できていない。

 

 かつて爺やが言ったように、魔力保持者がどんな固有能力アビリティ・ギフテッドを持っているかは、本人が気付く以外に見つける手段がない。

 だから運とか切っ掛けがないと、見つけられないまま泥沼にハマってしまう。


 あずさがそのパターンだ。

 この2年間彼女を見てきたけど、未だに発見の糸口を見つけられないでいる。


「でもさ、結局ハジメくんの固有能力アビリティ・ギフテッドってどんなことができるの? 私まだ教えてもらってないけど」


「そ、それは……爺やに話しちゃダメって言われてるから……」


「DTuberやってることも秘密にしてるんだっけ? ふーんだ、ヤんなっちゃうよね、新しいことに理解のない大人って!」


「……爺やのことは、あんまり悪く言ってほしくない……かも」


「あっ、ゴ、ゴメン……! ノンデリだったかな……!?」


「大丈夫、気にしないで。それより今日も動画を撮るの?」


「そうだね、ただ今日はちょっと趣向を変えてみたくて」


 彼女はそう言ってスマホを操作すると、DTubeのアカウント画面をこちらに向ける。


「じゃじゃーん! 実は、なんと私とハジメくんの『いずハジ@チャンネル』のチャンネル登録者数が500人を突破したのだ! それを記念して――今日はオフショットムービーのスタイルで配信しようと思います!」


「オ、オフショット……?」


「そう、私たちの普段の様子を知ってもらうの! だから今日はダンジョンじゃなくて、街に遊びに行こうよ!」


「で、でも修行が……」


「も~、ハジメくん修行ばっかり! ちょっと息抜きも必要だって!」


 俺はあずさに抱きかかえられ、廃城ダンジョンを後にする。


 さ、流石はピチピチのなりたて女子高生……。

 遊びに対するバイタリティが違うな……。


 街まで降りると、彼女はさっそく生配信を開始。


「おはいずも~! んん~? いつもと雰囲気違うって? 今日はチャンネル登録者数500人突破を記念して、私たちのオフをお見せしちゃいます!」


「……」


 俺は撮影が始まると同時に、黒マスクでサッと口元を隠す。

 爺やに秘密でやってる身だし、最低限の身バレ防止って意味で。

 ……爺やがDTube見てるとは思えないけど、一応な。


 さっそくコメントが流れ始め、



==========


金子匠: おはいずも~


モパさん: おはいずも~


緑のどん兵衛: ハジメきゅん今日もかわいい!


四倉駿: ハジメくんのオフとか胸熱!


偽物カボチャ: 小学生の黒マスクとかセクシーすぎひん?


とまとん: お、今日はオフなのか


ブロッケンZ: ハジメくんそのマスク売って♡


パイクスおじさん: ハジメきゅんと結婚したい


==========



 ……相変わらずコメントが怖い。

 このコメントを打ってるのが男性視聴者かもしれないと思うと、怖さ倍増。

 世の中の闇を垣間見てる気分になっちゃうよ……。


 コメントを見たあずさは、


「お~? おまいら今日もハジメくん大好きだな~? ここにかわいい現役女子高生もおるんじゃが~? よく見てみ~?」



==========


DTuberガチ恋: は?


ピーカプ: は?


モブ野郎: は?


ゲーム大魔神: かわいい女子高生?どこ?


花丸: 高校生はババア


100代目ゲバラ: 俺は好きやで。ハジメくんの方がもっと好きだが


コーヒー飲み過ぎ丸

 ¥3,000

 若作り代として使って


パンツマン: ハァハァパンツ何色?


==========



「お前らなぁ~!? マジ許さんからな!? もっとマシなコメントできんのか!? あとコーヒー飲み過ぎ丸さんスパチャありがと! めっちゃ煽りよるけど!」


 さっそくコメントとプロレスを始めるあずさ


 これも今や週末の風物詩だな……。

 視聴者もノリがいいと言うべきか、あずさもよく付き合ってられるなと言うべきか……。


 そんな感じで俺たちはコメントにレスポンスしつつ、道沿いのキッチンカーで飲み物を購入した。




==========


『出雲梓(16歳)』のキャライラストを新しく公開しております。

https://kakuyomu.jp/users/mesopo_tamia/news/16817330654245105559

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る