第15話 修行5年目


 ――修行を初めて、5年。


 数週間前に誕生日を迎え、俺の年齢は遂に10歳となった。


 10歳!

 年齢二桁!

 ここまで長かった……!


 これでも前世の3分の1以下しか生きていないが、それでも「ようやくここまで来たか……」と感慨深くなってしまう。


 背丈もだいぶ伸びて、今やなんと140センチ!

 ……っていうのは鯖読みで、本当は139センチなんだが。

 早くもっと伸びないかなぁ……。


 ただ身体つきは少しずつがっしりとしてきたし、まだまだ育ち盛りな実感はある。

 その内爺やの背丈だって追い抜けるだろう。……たぶん。


「……」


 ――そんな10歳になった俺は、今日も廃城ダンジョンの中で修業に励んでいる。


 少し開けた場所で座禅を組み、目を閉じて、精神を集中して〝イメージ〟。

 両手の指を交互に組んで、人差し指は腹と腹を、親指は爪先と爪先を合わせる。

 これは爺やから教わった〝りん〟という掌印の結び方だ。


「――【天魔創生ジェネシス・プリンター】」


 呟くと、俺の身体からズズッと魔力が漏れ出る。

 だがその直後、魔力がざわつく感覚。


『ヂュウーッ!』


 背後から妖怪の鳴き声が響く。

 これは巨大なネズミ妖怪〝旧鼠きゅうそ〟だ。

 目を瞑っているので体色まではわからないが、おそらく大きな出っ歯を剥き出しにして、俺に襲い掛かろうとしているのだろう。


「……出ておいで――【青龍せいりゅう毘沙門天びしゃもんてん】」


 頭の中で想像したモノを、出力――。

 刹那、身体から漏れ出ていた不定形の魔力が〝腕〟となる。


 〝腕〟は青い鱗で覆われ、爬虫類のような三本指には長い爪が生える。

 その指には三叉槍さんさそうが握られており――勢いよく、それを〝旧鼠きゅうそ〟へと突き込んだ。


『ヂュ――ウ――ッ!?』


 三又の穂先で胴体を貫かれた〝旧鼠きゅうそ〟は即死。

 吹っ飛ばされた亡骸が、力なく地面に横たわった。


「ごめんよ……成仏してね」


 殺めた〝旧鼠きゅうそ〟へ悼みの言葉を送り、立ち上がる。

 そして出力した腕に近付き、


「う~ん……やっぱり中々全身をイメージできないなぁ。まだ腕を出すだけで精一杯だ」


 青い鱗をペタペタと触りながらため息を吐く。


 ――【天魔創生ジェネシス・プリンター】を使いこなすための修行を初めてから、だいたい1年ちょい。

 俺は1つの壁にぶち当たっていた。


 それは〝この世に存在しない強力な生命体を生み出す〟こと。

 つまりスズメのような既存の生物を出力するのではなく、自分で考えて自分でデザインした、全く新しい戦闘用生命体クリーチャーの生成。


 言わば「俺の考えた最強の~」をやっている最中なのだ。

 そして、これは爺やが俺に出した課題でもある。


『例えゾウやライオンを出したとて、坊っちゃんの守護者は務まりませぬ。坊っちゃん自身が、坊っちゃんを守るに足る〝魂〟を生み出すのです』


 言わんとしてることはわかるけど、無茶苦茶に難しいよなコレ。


 だって俺は別にデザイナーでもなければモデラーでもないし、前世でそういう仕事に関わったこともない。

 いきなり「最強の生命体クリーチャーデザインして♡」なんて言われても、できるワケないんだよなぁ……。

 

 もう考えても仕方なかったので、俺はアイデアを得るべく爺やの書斎で本を読み漁った。

 そして「これだ!」と思うモノを見つけたのだ。


 それが〝四聖獣〟と〝九字護身法〟。


 青龍・朱雀・白虎・玄武――。

 方角の守護神である彼らをベースとして、古来より日本の守り神として崇められてきた毘沙門天・十一面観音・如意輪観音・不動明王をミックスする。


 独自性という意味では弱いかもだけど、こと強さ・・という点では想像しやすい。

 なにせ神様だからね。


 方向性を決めた俺は、さっそく生命体クリーチャーの出力に取り組んだワケだけど……結局未だに成功していない。

 現に、今日も片腕を出力するので精一杯だった。


 如何に土台ベースがあったとしても、見たことないモノを生み出すのは大変だよ……。

 生みの苦しさっていうのかな……。

 クリエイティブに携わる人たちのツラさが、よくわかった気もする……。


「……ま、いっか。これで150匹目の妖怪を倒したワケだし。それに、もうそろそろ――」


「――お待たせ! おはようハジメくん!」




==========


近況ノートで『慈恩ハジメ(10歳)』のキャライラストを公開中。

https://kakuyomu.jp/users/mesopo_tamia/news/16817330654163200112

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