第13話 固有能力(アビリティ・ギフテッド)
「修行の経過は如何ですかな、坊っちゃん?」
夕飯時――爺やは唐突に聞いてきた。
朝夕の食事を向かい合って一緒に食べるのは、俺と爺やの日課。
畳の上で正座し、足膳に乗せられた一汁三菜を箸で突っつく。
なんとも古風な感じだが、コンビニ飯で済ませることも多かった前世を経ているので、これはこれで案外気に入ってたりするんだよな。
ちなみに今日のおかずは、大好きなハンバーグ。
足膳の上にハンバーグというのはなんともミスマッチだが、爺やは週に1度は必ず俺の好きなおかずを用意してくれるのだ。
まったく優しいお爺ちゃんだよな。
……ハンバーグに添えられたブロッコリーには、そこはかとなく悪意を感じるけど。
「……爺やの意地悪。どうせ順調じゃないの知ってるくせに」
「ホッホッホ、爺やは坊っちゃんの口から直接聞きたいのですよ」
「ハァ……最近はすっかりだよ。妖怪たちってば、不利ってわかるとすぐ逃げ出すようになっちゃったんだもん」
「妖怪とて阿呆ではございませんからな。坊っちゃんも対策を考えないと、みすみす時間だけが過ぎてゆきますぞ」
「そんなのわかってるよ……」
不貞腐れ気味にハンバーグを食べる俺。
それをニコニコと笑って見てくる爺やの顔は、なんとなく腹立たしい。
「あ、でもちょっと前に発見もあったよ。爺やに教わってない魔力の使い方ができるようになったんだ」
「! もしや、ご自身の〝
興奮気味に目を輝かせる爺や。
待ってました!と言わんばかりに。
対して、俺は聞き慣れない言葉にキョトンとしてしまう。
「ア、
「ええ、魔力保持者1人1人が持つ特殊な
「それは、魔法とはまた違うの?」
「魔法であるとも言えますし、違うとも言えます。……そうですなぁ、例えるなら〝坊っちゃんだけが発動できる坊っちゃん専用の魔法〟とでも言えましょうか」
「僕……専用……」
「魔力の使い方というのは、大きく分けて3つ。普段坊っちゃんがやっているような〝魔力を直接ぶつける〟、次に〝魔力を魔法に変換する〟、最後に〝魔力で
あ、やばい。
爺やが説法モード入っちゃった。
せめて違うタイミングで聞けばよかったかも。
それに……ハンバーグ冷めちゃう……。
そんな俺の想いなど素知らぬ様子で、爺やは語りを続ける。
「まず〝魔力を直接ぶつける〟。これは言葉の通りで、持ち得る魔力をそのまま相手にぶつけます。シンプルで変換のロスもありませぬが、対峙する妖怪の魔力がこちらを上回った場合は容易く防がれるというリスクもあります」
「? リスクって……じゃあ爺やは、なんでそれを最初に僕に教えたの?」
「坊っちゃんの桁違いな魔力では、防がれる危険が皆無です故」
「ああ~……なるほどぉ~……」
言われてみればそうだった……。
俺の魔力って、簡単に山を凹ませたりできるんだもんな……。
純粋な魔力の押し合いで負けるはずないのか……。
「次に〝魔力を魔法に変換する〟。これは魔力を変換するロスこそ生じますが、今言った魔力の大きさの押し合いを無視することができます」
「……なんだかジャンケンみたいな感じだね」
「まさに。拳と拳をぶつけ合えば力の強い方が勝ちますが、拳を金属に変化させてぶつければ弱い力でも相手の拳を砕くことができる――そんなイメージですな」
うーんと、要は相性の問題ってことか。
魔力の大きさに自信があるなら、魔力をそのままぶつけてやればばいい。
でも、対峙する妖怪の魔力が自分を上回ってしまえばそうもいかない。
人間でも魔力量の大小があるように、妖怪の中にも飛び抜けた魔力量を持つ個体はいるはず。
もしも出会った妖怪の魔力量が、自分よりずっと多いなんてことになれば――ろくにダメージを与えられず、一方的にやられてしまうだろう。
そんな格上を倒す方法が、魔法。
相手の魔力量を無視してダメージを与える、盾を砕く矛。
そこだけ切り取って聞くなら便利そうだが――
「とはいえ、魔法も完璧ではありません。自分の魔力を異質なモノへ変化させるロスというのは計り知れない。無駄撃ちを繰り返していては、あっという間に魔力を切らしてしまう」
そう――以前爺やが言っていたように、魔力は
たぶんだけど、魔力ってのは車にとってのガソリンみたいなモノなんだと思う。
俺の勝手なイメージだと、
魔力をそのままぶつける=低燃費エコカーモード
魔力を魔法に変換してぶつける=高燃費スポーツカーモード
って感じ。
小排気量のエコカーで走れば航続距離は伸ばせるけど、本格的なスポーツカーとの速度勝負には絶対勝てない。
対して大排気量のスポーツカーがスピードを出しまくれば、速度では勝るけどあっという間に燃料タンクが空になってしまう。
結局どちらも一長一短。
だから状況に応じた使い分けが重要。
……で、そこに
「もうお気づきでしょう。
「効果が限定的な代わりに、高効率で使える魔法――というか
「
やっぱり。
エコカー・スポーツカーときて、次は〝
融通が利かない代わりに一芸に秀でる、って感じなのだろう。
そう考えると、まさに三竦みの関係だな。
「ですが勿論、この
「え? それって……一生
「然り。こればかりはどうしようもありません」
爺やはそう言うと、味噌汁を一口すする。
そして「ふぅー」と長く息を吐くと、
「とはいえ、坊っちゃんは幸いにも見つけることができた。それで、どんな能力だったのですかな? さあさあ、爺やに教えてくだされ」
「えっと……僕はどうやら、魔力をイメージ通りに実体化できるみたいなんだ」
「……はて?」
俺が教えると、爺やは不思議そうに首を傾げた。
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