第11話 D Tuber


「……? 配信者?」


「そ、DTubeで生配信したり、撮影した動画をアップロードしたりするの! ハジメくんも見てるでしょ? DTube!」


「ううん」


 ふるふると左右に首を振る。

 すると、あずさは目を丸くしてギョッとする。


「え……? 見てないの!?」


「っていうか、DTubeってなぁに?」


「ほ、ほああああ!? そもそもDTubeをご存知でない……!?  今の時代にそんな子いるぅ……!?」


 頭を抱えて絶句する彼女。


 いや~、俺身体は子供でも中身はおっさんだからさ。

 若者文化には疎いんだよねぇ。

 小学校のクラスメイトとはまるで話が合わなくて、普段会話するのは爺やばっかりだし。


「う~ん……どこから説明したものか……。まず、魔力保持者が人々の安全のためにダンジョンを攻略してるのは知ってるよね?」


「それは知ってる」


「その攻略を撮影して実況生配信したり、記録動画アーカイブにしたりするのが今流行ってるの。そういう魔力保持者やダンジョン攻略の視聴に特化した動画投稿サイトが、DTubeって名前なのよ」


「へぇ~……そんなのがあるんだ」


「私も、今日はここに撮影に来たんだ。もうチャンネル登録者が100人くらいいるんだよ? 頑張ってるでしょ」


 えへん、と彼女は胸を張る。


 知らなかった。

 DTube――少なくとも、俺が前世を生きてた頃にはなかったモノだな。

 きっとここ数年で出てきたのだろう。


 でも考えてみれば、俺が前世で死んでからもう8年が経つんだもんな。

 そりゃ新しいコンテンツの1つも出てくるか。


 しかし魔力保持者がダンジョン攻略を実況とは……。

 本当に、時代ってのは変わっていくなぁ。


「人気DTuberにもなると登録者が数百万人にもなって、広告収入やスパチャだけでお金持ちになれちゃうんだよ! それに運営から銀盾や銀盾のアワードが貰えるんだ!」


「盾……? 盾が貰えるの?」


「正確には、盾型に作られた表彰状だね。登録者数10万人で銀盾、100万人で金盾が貰える仕組みになってるの。あの盾は、全DTuberの憧れなんだ~!」


 両手の指を組み、胸をときめかせるあずさ

 

 話を聞けば聞くほど、この子はまさに等身大の中学生だな~って感じ。

 10万とか100万って数字に漠然とした情景を抱く辺り、若いよなぁ。

 中身30超えのおっさんには、この純粋さが眩しい……。


 それはそれとして、


「でもさ、魔力保持者って国からほじょきん?とかいうのが出てるんでしょ? あずさお姉ちゃん、お金に困ってるの?」


「うっ……」


 何の気なく尋ねると、見えない弓矢が胸に刺さった様子だった。


「……贅沢できるほど補助金が出るのなんて、実績のある魔力保持者だけよ……。しかもウチは貧乏神社で、こうでもしないとおかずがメザシだけに……フ、フフフ……」


 ――あ、しまった。

 これは地雷を踏み抜いてしまった感。


 そうか、神社ってなんとなく裕福なイメージがあったけど、どこもかしこもってワケじゃないもんな。

 小さくてちょっとボロい神社なんて、世間にはたくさんあるし。


「あ、あの、ごめんねあずさお姉ちゃん……」


「大丈夫、気にしないで……。ともかくそれは置いといて、試しに生配信に出てみようよ。これも経験だと思ってさ!」


「べ、別にいいけど……」


「ありがと! じゃ、SNSに配信始めるよ~っと書き込んで……」


 あずさは鞄からスマホを取り出すと、グリップの付いた長い棒の先端に取り付ける。

 そしてスマホに向かって、


「おはいずも~! 皆見てる~? 予定通り、今からダンジョン内で生配信やっちゃいます! しかもなんと、今日はゲストがいるんだ!」


 片目を閉じてウィンクし、空いた手でピースしつつ可愛らしく挨拶するあずさ

 おお、こうして見ると本物のアイドルっぽいな。


 彼女が映ると、画面の端にコメントが流れ始めた。


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