第10話 配信者


「――うわぁッ!?」


「わひゃあっ!?」


 驚く俺。

 そんな俺のリアクションを見て、さらに驚く女の子。


「え、えぇっと、驚かせてゴメンね! そんなつもりじゃなくて……!」


 彼女はあたふたと慌てふためき、敵意がないことを動作で示す。


 目の前に現れたのは、長い黒髪をポニーテールに結い上げた少女。

 着ている制服からして、たぶん中学生だろう。


 ぱっと見はどこにでもいる純朴な中学女子、といった感じだが――この子、魔力保持者だ。

 彼女の全身から揺らめくような魔力が見て取れる。

 

 それも、やや不思議な気配のする魔力だ。

 上手く言えないけど、澄んだ感覚というか、清らかさを感じるというか……。

 一言で言うなら、威圧感が全くない。


 ただ魔力量はそれなり。

 爺やと比べると2段――いや3段は格が落ちるな。

 ダンジョンに潜るには若すぎるし……。


「……どうしてこんなところに中学生が? 危ないじゃないか」


「そ、それを言うならキミだってそうじゃん! キミ小学生でしょ!? パパとママはどこ!?」


 ……あ、そうだった。

 今の俺はまだ8歳なんだったな。


 元々年長者の爺やの前と違って、これくらいの娘を前にするとなんかギクシャクするなぁ……。


 しかし中学生かぁ……。

 もし俺が死んでなかったら、これくらいの子供がいてもおかしく――。


 ……いや、これ以上考えるのはやめよう。

 なんだか死にたくなってくるから。


「え、え~っと……僕は今、修行をしてるんだ。僕も魔力保持者だから」


「ふんだ、そんな嘘お姉ちゃんには通用しません。だって魔力が全然見えないもの」


「ああ、そっか。こう・・すれば見えるかな?」


 俺は〝魔力の収縮〟を解除する。

 同時に、隠されていた膨大な魔力が露わになった。


「!? ひっ――!?」


 俺の魔力を見た途端、驚いて床に尻餅をつく女子中学生。


 そんなリアクションになるのも無理はない。

 〝魔力抑制珠〟を付けてる状態でも、俺の魔力量は彼女の何十倍もあるだろうからな。


「どう? わかってくれた?」


「す…………凄い凄い、凄い! キミ、本当に魔力保持者だったんだ!」


「あ、あれ……?」


「こんな凄い魔力量、見たことないよ! これって運命かな!? キミ名前はなんていうの!? よかったら私の――!」


「ま、待って! ちょっと落ち着いてってば!」


 矢継ぎ早に言葉をまくし立てる彼女を、なんとか落ち着かせる俺。

 なんだろう……やっぱり若い子って苦手かも……。


「ゴ、ゴメンゴメン! つい興奮しちゃって……名前を聞くなら、まずは私から言わなきゃだよね」


 オホン!を咳き込み、彼女は深呼吸する。

 そうやって自らを落ち着かせると、


「私の名前は出雲いずもあずさ! 都内の中学に通ってて、今は中学2年生。これでも由緒ある神社の娘で、本物の巫女なんだ!」


 神社の――?

 ああ、どうりで不思議な気配の魔力をまとっていたワケだ。


 やっぱり魔力って、そういう出所も関わってくるんだろうな。

 神聖そうな感じあるもん。


 しかし神社の子供、本物の巫女とは珍しい。

 前世ではそんな人間と知り合ったことないわ。


 ここは如何にも子供らしいリアクションとっておくか。


「へえ~、神社の人なんだ! なんかカッコいい!」


「えへへ、それほどでも。それで、キミの名前は?」


「僕は慈恩じおんハジメ。今8歳の小学3年生。今日はここで修業してたんだ」


「修行って、1人で?」


「うん。でも、いつもは爺やと一緒だよ」


 ……そう言っておいた方が無難だよな。

 流石に8歳の子供がずっと1人で修業してたとか、妖しさ満点過ぎるし。


「そうなんだ、1人で頑張ってて偉いねハジメくん。……ねえ、ちょっと相談があるんだけどさ」


「相談?」


「えっとね……キミ、私と一緒に配信者やらない?」


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