第8話 修行3年目
――修行を初めて3年が経った。
8歳になった俺は〝魔力の収縮〟も攻撃時の魔力コントロールも完璧に身につけ、爺やとの実戦訓練も今や慣れたもの。
驚いた時など感情の変化があっても、魔力が暴発することはなくなった。
最近では爺やとの訓練も鬼ごっこではなくなり、組手ばかりしている。
それでも爺やの経験値には追い付けず、投げ飛ばされてばかりいるけど。
だが――そんなある日のことだった。
「坊っちゃん、そろそろ
唐突に、爺やはそんなことを言った。
「潜る……って、どこに?」
「勿論、ダンジョンにです」
ニコニコの笑顔で言う爺や。
だがその言葉を聞いた俺は、緊張で身を強張らせる。
「ダ、ダンジョンって……妖怪と戦うってこと!? 流石にまだ早いんじゃ……!」
「いいえ。坊っちゃんは爺やがお教えしたことを吸収し、十二分に我が物としております。なれば、残るは実戦あるのみ」
「で、でも……」
俺まだ8歳だよ?
世間一般ではヒーロー戦隊モノにハマってるお年頃だよ?
それなのに妖怪と戦うって……マジで不安しかないんだが……。
「そう怖がられますな。さ、ダンジョンへ参りますぞ」
歩き出す爺や。
仕方なく、俺も彼についていく。
爺やは、普段修行に使ってる山とは異なる山へと入って行った。
そこは無数の大木が上空へと伸び、枝葉が日光を遮っている。
薄暗く、どこかジメジメとした空気感。
その中に――
「! Dゲート……こんなところに!」
異界であるダンジョンとこの世界とを繋ぐ門、Dゲートが鎮座していた。
しかし――それはこれまでTVなどで見てきたのよりもだいぶ小さく、随分こじんまりとしている。
「これはDゲートの中でも最低級の10級ダンジョンに繋がる門です。中には弱い妖怪しかおらず、彼らが外に出てくることはほとんどありません」
「へぇ……そんな門があるなんて知らなかった」
「実は至る所にあるのですぞ、こういう攻略するまでもない場所は。さ、参りましょう」
躊躇せず踏み込んでいく爺や。
仕方なく、俺も彼の後に続く。
そして中に入ってみると、
「これは……!」
俺の目に映ったのは――ボロボロに朽ち果てた木造作りの一室。
床と壁が木の板で覆われており、頭上を見上げれば天井を支える柱が交互に組まれている。
まるで時代劇にでも出てきそうな雰囲気だ。
「ここは10級ダンジョンの1つ、〝廃城ダンジョン〟です。見た目は雰囲気こそありますが、大したことはありません。――時に坊っちゃん、
爺やが回廊の向こうを指差す。
そこには――紫色の体色をした小型妖怪の姿があった。
「アレは〝
「? 紫色だったら弱いってわかるの?」
「ええ、妖怪は強さに応じて色が変化するのです。弱い方から順番に〝紫・藍・青・緑・黄・橙・赤〟となり、人を多く殺めるほど変色すると言われております。もっとも種族によってそもそもの強さが違うので、目安程度にしかなりませんが」
「ってことは、アイツは最弱ってことなんだね」
「
「!」
――既に人を殺している。
そう思うと、ザワッと鳥肌が立つのを感じた。
フラッシュバックするかつての記憶。
夜道で妖怪に殺された、あの恐怖。
あの時はなにもできなかったけど――
「……怖いですかな?」
「いや――むしろやる気出てきたかも」
今は違う。
今感じるのは、怒り。
この山の中で、名も知らない誰かが犠牲となったのだ。
妖怪に襲われた時、その人がどれだけ恐ろしかったことか――俺にはよくわかる。
だからこそ、倒さねば。
――俺は、1人で歩み出す。
すると紫肌の
『ギギっ!? ギィー!』
こちらを人と認識するや、すかさず襲い掛かって来る。
やはり人間を得物としてしか見ていないようだ。
俺の目に映る、
それによって、奴がどの程度の強さを持つか判別できた。
同時に一瞬で理解する。
この紫肌の
「歯ぁ食いしばれ」
右手の拳を握り締め、踏み込む。
そして
直撃の瞬間、魔力を一気に流し込み――
紫肌が周囲に飛散し、文字通りバラバラの粉々になる。
たぶん痛みを感じる時間すらなかっただろう。
「お見事。流石でございますな」
パチパチパチ、と拍手を送ってくれる爺や。
その瞬間俺はハッと我に返り、
「あ……僕、妖怪を……!」
「如何に魔力があろうとも、妖怪の恐ろしさに打ち勝つ心なくしてダンジョン攻略は務まりません。これで坊っちゃんは、第一歩を踏み出せたのです」
爺やはそう言うと、懐から数珠を取り出して祈りを捧げる。
「……爺やは、妖怪も弔うの?」
「散った命に貴賤なし。全ては食物連鎖の果てなのです。故に、これは食われた人々への弔いともなる」
「
「無論。これ以上の弔いはありますまい。さて――」
祈りを終えた爺やは俺へと振り向き、
「坊っちゃんには、今日からこのダンジョンで妖怪を
「にっ、にひゃく……!? いくらなんでもそれは――!」
「不安めされるな、ここには弱い妖怪しかおりませなんだ。それに……狩りを終える頃には、坊っちゃんは
なんとも意味深なことを言って、ダンジョンを出て行こうとする爺や。
しかしふと立ち止まり、
「ああ、勿論小学校へはちゃんと通いながらです。おサボりも宿題忘れも許しませんぞ」
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