第5話 合理的な魔力の使い方を知っているか?②
「この状態のまま……戦う方法?」
「ええ。坊っちゃんの魔力は強大過ぎる故、全力で魔力を放出すればどんな惨事をもたらすかわかりませぬ。常に抑えた状態で、最小限の魔力で戦うのが望ましい」
ああ……それもそうか。
実際、赤ん坊の頃にくしゃみで飛行機を撃墜しかけたくらいだもんな……。
俺自身、自分が本気を出したらなにがどうなってしまうのか、怖くて試せないよ。
「……爺や、どうすればいいのか教えて」
「心意気や善し。では初めに――坊っちゃんは、この世で
「え……? 呪文を唱えて魔法を放つ、とか?」
「いいえ、答えは〝殴る・蹴る〟です」
「…………」
「そんな「とうとうボケ始めたか、このジジイ」みたいな目で見られますな。今から説明します故」
爺やは収縮した魔力を元に戻すと、手の平に魔力を集め始めた。
「確かに世間一般では、魔力の射出という使われ方が多くされております。ですが、それはあくまで〝便利だから〟に過ぎないのです」
彼は手の平から指の先に魔力を集め、デコピンする要領で小さく魔球を撃ち出した。
その魔球はふよふよと浮遊し、点滅しながら飛んでいく。
「離れた敵を一方的に屠る。これほど楽で安全な戦い方はありません。ですが弓矢然り、投石然り、放った場所から離れるほど威力は減衰していく――」
ある程度の爺やから離れたタイミングで、魔球はパッと消滅。
同時に彼は魔力を指先から手の平へと戻した。
「これは便利な反面、魔力消費の効率は悪いと言っていいでしょう。さらに魔力を炎や水といった属性に変換する過程を挟めば、燃費は最悪とすら言えます」
「だから少ない魔力で効率的に、かつ一律にダメージを与える方法が〝魔力を放たない〟ことだと」
「坊っちゃんの聡明さには頭が上がりませんな。とても子供とは思えませなんだ」
そりゃあ中身は30越えのおっさんですからねぇ……。
などと思っても言わない俺。
爺やは腰の横に腕を置き、バッと正拳突きを繰り出す。
その動きは極めて洗練され、無駄がない。
「魔力を拳や脚に集中し、打突の瞬間だけ相手にぶつける。これならば威力が減衰することもなく、最低限の魔力で効率的なダメージを与えられます。魔力を抑えた状態でのコントロールも難しくない」
「なるほど……。でもちょっと待って。それなら武器を持って、そこに魔力を注ぎ込んだ方がいいんじゃないの? そっちの方が威力も出そうだし……」
「ほほぉ、鋭いですな。爺やはなんだか楽しくなってきましたぞ」
本当にウキウキとした顔で笑う爺や。
久しくこういう話を他人としてなかったんだろうな。
彼の本質は、きっと武人なのだろう。
「確かに攻撃の威力を上げるだけなら、得物を持った方が効率的です。もっとも、坊っちゃんの膨大な魔力に耐えられる武器があれば、の話ですが」
「……武器に魔力を込めるだけで俺――じゃなくて
「まさに。ですが心配ご無用。坊っちゃんほどの魔力があれば、素手でも十分過ぎる威力が出せると思いますぞ」
ハハハと笑う爺や。
なんていうか……笑っていいところなのか、そこは……?
遠回しに化物って言われてるような感覚なのだが……。
「お話はここまで。坊っちゃんには今日から、魔力の収縮を維持しつつ徒手空拳に取り組んで頂きます。ビシバシいきますぞ」
「お、お手柔らかにお願いします……」
「なぁに、心配なされますな。この爺やが、坊っちゃんを〝羊の皮を被った大狼〟にしてご覧に入れましょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます