第4話 合理的な魔力の使い方を知っているか?①


「さて……それでは修行を始めまするぞ」


「押忍! お願いします、爺や!」


 修行1日目。

 胴着に着替えた俺と爺やは、道場までやって来ていた。


 小柄な俺も子供用胴着の帯を締め、気合を入れる。

 たぶん傍から見れば、今の俺たちは空手教室の先生と生徒みたいに映るんだろうな。


「坊っちゃんには魔力のコントロール、中でも魔力の抑え方を学んで頂きますが――そもそも魔力を抑えるという行為は、本来意味がないことをご理解頂きたい」


「? そうなの?」


「坊っちゃんの目には魔力が見えるでしょう。それは妖怪にも同じなのです」


 爺やはグッと身体に力を入れる。

 すると普段より大きく魔力が放出され、威圧感が増した。


「魔力を見せる行為は、端的に言って〝強さの主張〟です。例えるなら、自分は大きな身体を持っているぞ、屈強な肉体を持っているぞ、あるいは強力な武器を持っているぞという――要は妖怪へ対する示威の意味があるのです」


「……だから魔力を隠すのは、〝自分は力がない〟〝自分は弱い〟とアピールすることになる、ってこと?」


「然り。食うか食われるかの関係において、自らを矮小に見せる行為にはなんの意味もありませぬ。魔力を大きく見せる術は世界に数あれど、魔力を抑える・隠すという技はとても少ない。極めて特殊な技術となります」


 ――なるほど。

 強くなりたいと願う人間なんて星の数ほどいるだろうが、弱くなりたいと願う奴なんてそういない。

 当然と言えば当然だ。


 ……そう考えると、俺って本当にイレギュラーな存在なんだな。

 どうしてこんなアホみたいな魔力を持って生まれてしまったんだか……。


「本題に入りましょう。坊っちゃんは、魔力というのはどこから出てくるとお思いか?」


「えっと、身体の内側? こう、おへその辺りから湧き上がってくるような……」


「およそ正解です。しかし、それではイメージがしづらい。ですので、呼吸を思い浮かべてくだされ」


「呼吸……」


「息を大きく吸えば肺が膨れ、身体に血液が巡り、より力が出せるようになる。逆に息を小さく吸えば、その逆が起こる……」


 爺やはそう言うと、両目を閉じる。

 精神を集中し、全身を脱力させる。


 すると――さっきまで溢れていた彼の魔力が、完全に見えなくなった。


「おお……!」


「これが〝魔力の収縮〟。己の身体を、最小限のエネルギーで回すイメージをするのです。さ、やってみましょうぞ」


「よ、よし……呼吸を小さくするイメージで……」


 俺も爺やと同じように目を閉じ、集中する。

 見様見真似だからできるかわからないけど、身体を最小限で回すイメージで――


「――」


 すると、自分の魔力がグッと身体の中に押し込められた。


「! お、おお……教えた傍からできるとは……。本来、一日一夕でできる芸当とはないのですが……。流石、といったところですな……」


「うんと、とりあえずコレでいいの?」


「いえ、まだまだ魔力が目視できまする。坊っちゃんには、魔力が肌の内側に隠れるまで訓練して頂きますぞ。これができるようになれば、もはや魔力のコントロールは完璧となるでしょう」


「は、肌の内側……なんだか出来る気がしないけど……」


「ハハハ、不安になられますな。この状態を365日維持し続ければ、嫌でも出来るようになります故」


 ……さ、365日ってつまり、この状態をずっとキープ……?

 思ってたよりだいぶしんどいかもな……。

 まあ慣れの問題かもしれんが……。


「ともかく、すんなり魔力を抑えられたのは幸先やよし。では次に、その状態のまま戦う方法を伝授致しましょう」


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