第10話 ジャックとリチャード

 ジャックは、マリーの言いつけ通り学校の食堂でご飯を食べながらマリーの叔父を待っていた。


 ジャックは、少し緊張していた。

 ジャックにとって大人は、悪い印象のほうが強かった。

 知っている大人は少なく、挨拶する程度だったり、学校の先生など一歩引いた存在だ。

 一番身近な親方や、一緒に働く2人の男達は、口より先に手が出る人達だったので、いつも理不尽に殴る大人が、ジャックの大人の印象になっていた。

 ましてや貴族階級なんて鼻持ちなら無いに違いないと思っていた。


「ジャック、まだ叔父様来てないのね。」

 マリーが食堂に現れ、ジャックの前に座る。

 ジャックは、まじまじとマリーを見た。


「まぁ、鼻持ちなら無いは、撤回するか…」

 ジャックは、小さく呟く。


「なんて言ったの?」

 マリーは、不思議そうに聞く。


「別に。」

 ジャックは、楽しそうに笑いながら、デザートを食べた。今日はプリンだ。少し硬めなプリンは、濃厚で人気だ。


「ちょっと、気になるじゃない?」


「う~ん、教えない。」

 ジャックは、意味ありげにマリーを見る。


「教えて。」

 マリーは、ジャックからプリンを取り上げる。


「マリー、遅れてすまない。」

 リチャードが、食堂に入って来た。


 ジャックは、プリンをマリーから取り上げ、立ち上がった。

 マリーとリチャードが話し終わるのを待った。

 貴族に自分から声をかけれない。


「君が、ジャックかい?」


「…はい。」

 思っていたより、若々しい大人が来たので、ジャックはホッとしていた。


「さぁ、座って。食べながらで構わないよ。」


「ありがとうございます。」

 ジャックは、おずおずと残りのプリンを食べ始めた。


「さっそくで悪いけど、ニューフロンティアの件で、親方のところに人が来たそうだけど、何人でどんな人物だったか教えてくれるかな?」

 リチャードは、回りに人のいない事を確認して急ぎ話し始めた。


「あ~、三人です。と言っても一人は一緒に働くチャドなんですけど…。」


「チャドと言う人以外は、貴族かな?」


「どうかな、良い服だったけど。たぶん違うと思う。俺が住んでる地区は、治安が悪いから貴族が入ってきたら、あんな余裕な態度でいられない。命を取る奴はいないにしても、金はいただくだろうから。」


 マリーは、ジャックがそんなに治安の悪いところに住んでいる事を初めて知った。

 こっそりジャックのところに、遊びに行こうと考えていたので、危なかったと胸を撫で下ろした。


「見たことのある顔?」


「一人は知らない。もう一人は、顔が見えなくて、でも…」

 ジャックは一生懸命に思いだそうとしていた。なんだろう、すごく知っているような気がするのに、思い出すことが不安な気持ちになっていた。


「なんでもいい。気がついたことを教えてほしいんだ。」

 リチャードは、優しく即す。


「あっ、そういえば!」

 ジャックが、思い出したように顔を上げた。


「なんだい?」


「…いや、ちょっと訛りがあって、どこかで聞いたなって思って…。」

 ジャックは、急に言い淀んだ。


「どこかな?」

 リチャードは、訝しみながらジャックを見た。


「…思い出せない。」

 リチャードは、ジャックがマリーをちらっと見た気がした。


「そうか。」

 リチャードは、ジャックが何か隠していると思ったが、今は無理に聞き出すのを止めた。


「チャドはどんな人?他の二人との関係や、なぜニューフロンティアを推しているのかな?」

 リチャードは、ジャックが聡い子と踏んで、一気にを質問してみた。


「チャドがニューフロンティアについて推しているのは最近で、それまでは親方同様怪しんでました。たぶんあの二人に会ってからだと思う。」

 ジャックは、二人の話しになる時は、慎重に話し始めた。


「たぶん2週間くらい前に、ニューフロンティア政策についての会合を魔法省がやったでしょう?」

 リチャードは、頷いた。

 魔法省が、貴族達を集め融資を募るため開いた会合であったが、貴族達からの強欲な要求に魔法省がうんざりさせられた会合だ。


 静かな食堂でジャックが話しを続ける。

「その日からチャドや他の人達にも賛成派が増えた気がする。なんか酒場で良い話しを聞いてきたって、親方ともう一人一緒に働くボビーに自慢気に話しをしててうるさかったから。チャドは酒に酔うと酷いから。それで捕まったこともあるし。」


「その酒場を知っている?」

 リチャードは、酒場に話しを聞きに行こうと思った。


「ギャロウズって酒場。昔、絞首台があったところだよ。リチャードさんは行かないほうがいいよ。」

 ジャックは、肩をすくめて話しを続けた。


「その酒場、犯罪人しか来ない場所だよ。」

 ジャックは、マリーをちらっと見た後、ちょっと迷ってからリチャードを見た。


「どうしても知りたいことがあるんですか?」

 ジャックは、躊躇いながらリチャードに聞いた。


「うん。誰かが貧しい人達を騙して、悪さをしようとしているかもしれないから、その悪い人を突き止めたいんだ。」


 ジャックは、リチャードの正義感に押されて、口を開いた。


「お金が必要になるけど、伝を作ってあげるよ。」


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