第6話 ニューフロンティア

 マリーは、屋敷の庭に続く大きなガラスの扉を開け庭に出る。

 街の郊外に建つマリーの家は、貴族階級ではかなり上位の貴族らしい大きな庭園を持っていた。

 その庭に白い丸テーブルが置かれ、父、母、双子の弟達、妹がすでに座っていた。

 父の側に叔父が大きなケーキの箱を持って立っていた。


「やぁ、マリー。グッドタイミングだな。」

 叔父がにっこり笑って、メイドに箱を渡す。


 叔父のリチャードは、母の年の離れた弟だ。

 まだ22歳と若く、今は父の仕事を手伝っていた。

 母の実家は、すでに母の兄が継いでいるので、叔父はいつも「自由気ままさ!」と気楽な言い方をしていたが、実業家目指して頑張っていた。


「たしか、このケーキ屋さんのパティシエさんは、かわいいお嬢さんよね。大分前に少しお会いしたことがあったわよね。あなたが魔法学校に行ってた時のクラスメイト!思い出したわ。」

 母が叔父に声をかける。


「ええ。今はとても腕の良いパティシエです。」

 嬉しそうに叔父が答える。


「叔父様も魔法学校に通ってたの?」

 マリーはびっくりした。

「ああ、たいした魔法を使えないから、今は、たまに魔法省で仕事をもらうぐらいだよ。」

 叔父は少し恥ずかしそうに笑って答える。


「おまえも美味しいケーキを持って帰る家庭をそろそろ作ったらどうだ。」

 父が叔父に座るように即しながら、声をかけると、叔父は、少し気まずげな顔をしながら椅子に腰掛けた。


「いえ。まだ家庭を持つほど仕事が出来ていませんので…。さぁ、ケーキも配り終わりましたし食べましょう!」


「美味しそう!とても綺麗だし。ステキね!」

 イチゴの他に、中央に紫や赤いベリーなどが飾られ色鮮やかなケーキに、マリーや弟達、妹は身を乗り出してケーキに顔を寄せている。


「う~~ん!」

 マリーは、ケーキの味、香り、食感を堪能して幸福な声をもらした。


「魔法省といえば、最近例のニューフロンティアの話題が頻繁にされているな。状況はどうなんだ?」

 最近、新聞や噂話に良く上がるニューフロンティア。

 マリーは、良く知らないので父と叔父の話しに耳を傾けた。


「ええ。難航しているようですね。移住者を求めながら、実は開拓者を求めている状態です。何も無い状態の所に街を作ろうとしてますから、みんな様子を伺ってばかりで進みません。国が率先して動いてくれたら良いのですが…。」

 叔父は、悔しそうな顔をしていた。


「おまえも、その話しに一枚噛んでいるのだろう。慎重に投資しろよ。」

 父が心配そうに叔父を見る。


「ねぇ、お父様、そのニューフロンティアってなんなの?」

 マリーは、凄く気になり会話に加わる。


「この街から列車で8時間ぐらいの所に、新しい街を作る話しが出ているんだよ。」


「凄い!どんな街になるのかしら、新しい街なんてステキね!」

 マリーは、綺麗な街を想像して興奮して身を乗り出して話しを即す。

 続きを叔父が答える。

「新しい街は、実験的だが、身分の違いのない街作りをしようと動いているんだ。子供達がだれでも学校に通い、働く場所でも格差なく仕事をして、結婚も身分の差関係なく出来て…」

 父の咳払いで、興奮して話す叔父が我に帰る。

「すみません。つい興奮して話してしまって。」


「子供には、難しい話しはここまでにして、マリー、弟達と遊んで来なさい。」


「えー、全然難しくないわ!」

 マリーは、もっと聞きたかった。ジャックは知ってるかしら、ジャックのためにも、もっと詳しく聞きたかった。

 だが、父はとても厳しい顔をしていた。


「マリー。」

 母の言葉で、話しはここまでとなった。


 マリーは、渋々席を立ち、庭で遊ぶ弟達のところに向かった。


「すみません。マリーに余計な好奇心を与えてしまって。」

 リチャードはマリーの父親に謝罪した。


「ニューフロンティアは、美しい理想の街だろう。だが、身分ある者からしたら、今の生活がすべて壊れるかもしれないと危ぶむ者達が多い。十分言葉に注意しなさい。私は家族も、義理の弟であるおまえも守りたいのだから。」


「はい。気をつけます。」

 リチャードは、マリーの父親の言葉を受け入れた。

 確かに、貴族階級の今の生活が無くなれば、ニューフロンティア政策事態の存続も危ぶまれる。

 リチャードは、魔法省とかなり積極的にこの政策に取り組んでいることをマリーの父親に話していなかった。


 慎重に対応しなくてはとリチャードは、気を引き締めた。



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