第5話 分かろうとすること

 マリーは、毎日ジャックの隣に座り授業を受けていた。

 嫌々とはいえ、ジャックも少しずつ話し始めてくれて、段々と聞いて良い事とダメな事が分かるようになってきていた。


 仕事の話しは、マリーが聞いていても思わず顔をしかめてしまうようなキツイものだった。

 親方に殴られたり、休みが無かったり、自分の父親や叔父の仕事、家の使用人を考えても想像できない酷さだったが、ジャックは、普通のように話している。

 マリーは段々、自分の話しをすることにためらいを感じ始めた。


 ジャックは、マリーの態度が変わっていくのを感じていた。

 多分、自分のせいだろうということは、分かっていた。


「マリー、今日はこの後何をするの?」

 最近元気の無いマリーに、ジャックが問いかける。


「今日は、えっと…」

 本当は、帰ったら街で有名なパティシエが作ったケーキを家族で食べる約束をしていた。

 マリーは嘘もつけず、口ごもってしまった。


「マリーは、嘘が苦手だな!」

 ジャックはマリーの鼻を摘まんでフリフリした。


「痛いわ。」

 マリーは、なんとなく申し訳ない気になって怒れなかった。


「正直に答えろよ。俺の事を質問責めにして、自分の話しは教えないのかよ?そんなに気を使わないとダメなら、明日は俺の隣には座るなよ。」

 ジャックは、怒る訳ではなく、優しく話してくれている。


「今日は、この後家族と有名なパティシエが作ったケーキを食べる約束をしているの。なんかごめんね。自分が恥ずかしくなって…。」

 マリーは、おずおずと答える。


「マリー、人に気を遣うことは良い事だと思うよ。でもマリーのそれは同情に近いだろう。同情は失礼にあたる場合があるからな!俺は、同情されるなんてごめんだよ!」

 今度は、ちょっとキツイ言い方をするジャックにマリーは、慌てた。


「ごめん。どうすれば良いの?」

 マリーは、正直に聞いてみた。


「普通に答えればいいだろう。そりゃ羨ましいって思うかもしれないけど、新しいことを知れるかもしれないし、マリーのことも知れて良かったって思うだろうし…。」

 ジャックは、ちょっと口ごもった。


「ジャックもマリーのこと知りたい?」

 マリーは、満面の笑みになっていた。


「嫌、知りたくない。」

 ジャックは、そっぽを向いた。


「じゃあ、これからは正直に話すわね。だからジャックも、」

 マリーをさえぎって、ジャックが割り込む。

「正直すぎるのも問題だ。」

「もう~!いいの!正直に生きるわ!」


 マリーとジャックの後ろで、他の貴族達が呆れた顔をしていた。

 仲良くなることに何の意味があるのだろうと、いくら学校でクラスメイトだろうと学校を卒業したら、同じ職場になることも無い。卒業して終わりなのに。


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