第8話 ハツデンショの真実

 男裸部屋おとこはだかべやから上がってきた族長とゴボーとと合流し、私たちは次の部屋に向かった。


 そこが、このハツデンショがハツデンショたる由来、『ハツデン』なる行為を実施する場所らしい。


「ほいたら、次はせっかくなんで発電もやってもらおかな」


 と、御坊が言った。


「分かったわ。きっと素晴らしいものなんでしょう? 温泉よりもずっと」


 御坊の動きが一瞬止まり、アウラに耳打ちするように「コイツどっか頭打ったんか? どえらい素直やん」と聞いているのを私のエルフ耳は聞き逃さない。


「失礼ね。あなたたちが私たちをどう思っているのかを理解しただけよ。これまでの非礼はとりあえず詫びるわ」


 御坊はアウラを見る。


 アウラは、「ま、御坊氏は気にしなくていいッスよ!」


 と取り合わない。


 ゴボーは、ふうん、と息をついて、「じゃ、とりあえず見てもらおか」


 ドアを開ける。


「ここが日本ではじめて、エルフの力で発電する『エルフ発電所』の心臓部、『発電室』や」


 ドアの向こうに広がるのは、おそらくこの建物内で一番大きな部屋。


 規則正しく革張りの一人掛けのロッキングチェアが並んでいる。


 縦に5列、横には12列。


 今はほとんどが空席だが、6,7席ほどすでにエルフが座っている。


 すべての椅子に太い管が繋がれ天井に伸び突き抜けている。


 エルフの座っているところのみ、その管をかすかに光る魔力の帯が通っている。


 チェアの右側にだけひじ掛けがあり、そこに腕を固定している。


 近づいてみると、その帯にも細い管がたくさん繋がれており、一本一本に様々な色の魔力が可視化されて通っている。


 どのロッキングチェアの背にも小さな板、いや、窓のようなものがついており、その後ろに腰掛けているエルフが、どこかの世界と繋がっているかのごとく映し出される風景に見入っている。


「……」


 この奇妙な光景を見て、


 私は一言の言葉も発することができなかった。


「驚いたろう。私もいまだに信じられないと思うことがある」と、威厳に満ちた声で族長が言う。「これがエルフの発電所。御坊が私たちのために作った施設だ。それも、信じられないほど短時間で」


「……一応説明しときましょか。いま言うても分からんやろけど」と、御坊が少し前に出て、空いている椅子に手をかけ、こちらを振り返る。


「これ、エルフの魔力を変電器へ送る椅子型の変換ユニット『EE-01』や。温泉から吸収した魔力をそこの管から吸って、ほいで天井裏の変電器本体で電力へ変換しちゃある。普通電気作るっちゅうたら、モノやら土地やら色々ぎょうさん要るさけそんな簡単に作れやんのやけども……魔力いうのはそのまま取り出しても危なくもないし、装置自体に金もかからん、うまいことできるもんや」


「ふうん、なるほどね」


 と、相槌だけは打っておこう。


 魔力……変換……。


 なにやら嫌な予感がするが、そのまま話を続けさせる。


「ただ……俺らにはその力は取り出せやん」


 当然だ、エルフの血にこそ魔法という恩恵があるのだから。


「俺らには分からんかったんやけど……なんかこの温泉に含まれる魔力、えらいぎょうさんあるみたいやさけ、普通に温泉浸かるだけで魔力が満タンになってまうみたいやな。温泉から直接魔力は取り出せんのやけど、魔力の固定化がされているエルフの体内からからはそれができる。それをこいつで取り出して、電力を作ってる、ちゅうわけやな。あー、んで、電力っていうのは、なんていうか、おまんが驚いちゃあることだいたいぜんぶが電力のおかげやと思ってええで。それくらい、俺らこの世界の人間にとっては大事なもんじょよ」


「魔力から人間たちの生活に利用するエネルギーに、なるほど、そういうことか……」


「エルフの魔力を使わせてもらっちゃある代わりに、こっちからも保養施設としてこの施設を提供する。他にも用意せんといかんもんは出来る限り用意する。そうやってお互いの力でバランスを取って、日本で初めての実験的なエルフ発電をしちゃあるんが、この日本エルフ発電公社準備室なんよ」


「そんでそんで! この御坊氏が、発電システムを作り出した天才的な役人ってわけッスよ! いや~~これが中々気持ちが良いんスよね。過剰な魔力が抜けて、ほどよくリラックスできて、発電してるほうも最高の気分ッスよ。感謝感謝!」


 と、アウラが御坊の尻を叩いた。


「そんな大したもんちゃうで。一介の役人やわ」


「謙遜しちゃって~~」


「実際、我々としても助かっている側面は大きいしな」と、族長が言う。「エルフの中には、生まれ持っての特性や体調によって魔力の調整が難しい場合もある。魔力不足が原因で死んでいったエルフたちがいることはお前も知っているだろう。逆に魔力過多による暴発事故や、時には死人が出るような大規模な事故だって今までなかったわけではない。そういう特異体質のエルフにとって、いわば療養所としての側面もあるのだからな」


「……いうて、俺ら人間も、エルフからもらうばっかではアカンからなぁ」と、御坊が照れくさそうに頭をかいている。「色々面倒もあったけど、族長やウチの町長とかも色々うまくやってくれたし……世の中が変に混乱する前にここまで漕ぎつけられて良かったわ」


「うむうむ。なあ……シュルツよ」


 私は族長に呼ばれてその横顔を見た。


「我々のせいではないとはいえ、一人取り残すようなことになってすまなかった。さぞさみしかったであろう。心配したであろう。でも、これを見れば安心してくれるはずだ。我々は、今度こそ、人間たちとうまくやっていく方法を見つけたのだ。世界は違えど、きっとここなら我々が隠れるような暮らしをする必要はなくなるだろう」


 族長の言葉が途切れたタイミングで、私は開いている椅子の一つに手を乗せる。


 そして、私は、


 力任せに、


 「ウオリャッ!!!!!!!!!!」


 と、椅子に繋がれている管を引きちぎった!!


 そして私は、


「みんなどうしてゴボーに騙されていることに気が付かないの!?」


 と叫び、こっそり展開していた水の魔法を展開、御坊の顔の部分を、宙に浮かぶ水の玉の中に沈めた。


 出力をあげ、水の圧力を上げていく。彼の軌道に、容赦なく水圧をかけていく。すぐに倒せるほどの出力は出ないが、窒息させることを考えれば私の魔力出力でもなんとかなる。


 やはり、こいつは今すぐ息の根を止めないと!


 こんな危険人物、生かしておくわけにはいかない!


(つづく)

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