第5話 ハツデンショへ
「ここは……」
「ここが発電所や。正式名称は『日本エルフ発電公社準備室』やけどな。みんなは発電所って呼んじゃある」
と、ゴボーが看板を指さして言う。
ここで私は気が付いた。
話は通じるのに、文字はまったく読めないことに。
その看板も、あきらかに大陸新語でも古エルフ語ではない文字で書かれており、読むことができない。
でも話が通じるのは一体……
そういえば聞いたことがある。
かつて、文字がないほどの大昔、世界のすべての種族が同じ言葉を話していたということを。
彼らはみんな同じ楽園を目指して旅をしていたが――
最後の最後でお互いを出し抜くため、種族でしか通じない暗号を生み出し、それが今の多様な言語の礎になったのだと……
でも……あれ……だから何……?
日頃の勉強不足が露呈したせいもあり、看板の前でウンウン唸っていると、
「そっかそっか、シュルツは日本語の勉強前だから読めないんッスよね~~!」
「いやいやそういう問題じゃなくて……え?」
「ふふん、まあ私には読めるんッスけどね~~」
と、この聞き覚えのある声の持ち主は――幼馴染のアウラだ。
私にくらべて背が低くちっこくて全体的に貧相、かつ言動が失礼なやつなんだけど……しかしどこか憎めない女なんだよな……腐れ縁というやつか。
でも、なんでついて来ているんだろう。
「シュルツ今来たとこなんスよね? だったら知らないもんな~~~何にも!」
「仕方ないでしょ、そんなの」
「仕方ないッスよね~~~確かに仕方ないッス!」
会話するたびにいちいちマウントを取られて腹が立つので、今はとりあえず無視しておいて。
この不思議な建物を、私はじっくりと眺めた。
大きな平屋建ての建物。
この世界にあるあらゆる人工物に共通することだが、凹凸が極端に少ない。よっぽど不思議な素材があるか、高い技術があるに違いない。
建物の奥からはもうもうと湯気が立ち上り、ほのかに火薬のような匂いがする。
ハツデンショ……
兵器工場? 兵士の精練所? あるいは魔道具の製造施設? 何かきな臭い気配を感じるな……
ますます油断できない……
「失礼しますー」
と、ゴボーは言い、その建物の扉をガラガラと音をたてて開けた。
ゴボーは少し上がった板間で、靴を脱いでいる。
「ほら、シュルツも靴脱ぎよし。靴脱いだら、その箱に入れるんやで」
と、私も靴を脱ぐよう促される。
なるほど、武装解除のつもりか?
でも、なんで靴だけ?? ナイフとかその他は持ってても大丈夫なの?
とりあえずは言われたとおりに靴を脱いで中に入る。
ギルドの受付のようなカウンターがあり、中には人間が二人。
私たちに対して、「いらっしゃいませ」とあいさつし、「靴箱の鍵をお預かりします」と言った。
なんだ、何を企んでいる……?
鍵を渡すと、代わりに柔らく伸縮性のあるらせん状の物質で作られた腕輪を渡される。
触った感じはかためのスライムといったところ。
その腕輪には、切り欠きの入った四角いプレートがついている。
何か呪術的なものを感じるデザインだが……
まさか魔力を封じる呪いのアイテムでは……!
と思ったが特に禍々しいものは感じない。
万一に備えてこっそり解呪をつぶやいておき、それから腕に通した。
奥に進むにつれどんどん魔力が濃くなっている。
兵器工場、案外当たっているのかもしれない……
温かみのある板張りの廊下(これもまた、ささくれ一つない恐ろしいほど滑らかな板!)を素足でぺたぺた進んでいくと、
「じゃ、俺と族長はこっちやさけ。あがったらここで集合な。アウラさん、あとはよろしく」
と、ゴボーと族長は青い暖簾の向こうへと消えていく。
これはいけない。この危険な男を族長と二人にしてはいけない!!
と私はそれに強引についていこうとするが、アウラにそれを止められる。
くっ……放せ……!
「ちょっと、なにやってんスか! 我々はこっちッスよ!! 入ればわかるから、入れば!」
と、アウラに引っ張られるようにして、赤い暖簾の中へと入っていく。
そこで私は衝撃の光景を目にすることになる。
私とアウラ以外にも数人のエルフがいたが、
皆が、
おい、
なんということだ、
裸!!!!!!
私は拳を握りしめた。
怒りのあまり、あわや沸騰しかけの熱い血液が全身を駆け巡る。
おのれゴボー、いったい彼女たちに何をさせているのだッ!!
「うおおおおおお!!!!」
「ちょっと、どこ行くんスか!?」
「ゴボーを消すに決まってるでしょうがッ!! 何が目的だあの下郎め!!!」
「待つッスよ、ほら、説明してやるからちょっと! あッ!」
アウラの手をすり抜け、私は叫びつつ部屋を出て、ゴボーと族長が入った部屋に突入した。
そこで私はさらに衝撃の光景を目にする……
部屋には……全裸になったゴボーと族長が……
……なんで裸……?
え? なに、裸族……?
あるいはそういう関係……?
あまりの情報量のせいで逆に頭の中が真っ白になり、
それっきり、私の意識は途切れた。
(つづく)
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