第153話 奈落

 翌日。


 昼前ごろ、ルシウスとプリエナは馬車で無崇邑むすうむらへと戻る途中であった。

 2人の対面にはリシータだけが座っており、杖の四聖ナリスは同乗していない。リシータたちが乗った馬車を囲む聖騎士たちの中に混ざっているのだ。


 ――それなりに信頼されたのかな


 無論ルシウスではなく、巫女の立場になるプリエナに対してである。きに同乗したのは、久しぶりに王国から戻って来たプリエナが、今も大巫女リシータとの友愛の情を抱いているかを確認するためだろう。


 当のプリエナは、心なしかいつも以上ににこやかであった。

 焼かれていた顔が戻ったのだから、当然といえば当然か。


 その様子に大巫女リシータがニヤニヤとする。


「ふーん、昨晩は何かあったね?」


 急に顔が真っ赤になるプリエナ。


「な、何もないわよ!」


「はぁ、いいなぁ〜」


「だから、何も無いって!」


 笑みを浮かべながらも、やや物憂げな大巫女リシータ。


「茶化してるんじゃないの。私も好きな人と結婚して、子供が欲しいなって」


「⋯⋯リシータ」


「別の諦めてるわけじゃないよ? かなり珍しいことだけど大巫女でもエリナオ様のように子供を産むこともあるんだから」


 先代大巫女エリナオとは幻水神ヴァルナをその身に宿していた大巫女である。すでにこの世にはおらず、遺体はヴァルナ神にきょうされた。


 ルシウスたちが匿う巫女候補サイから優しい女性であったと聞かされていたが、子がいたとは思わなかった。


「エリナオ様に子どもが? 初耳」


「子どもが誰なのか、その父親は誰なのか、ヴァルナ神殿の関係者でも極限られた人しか知らなかったみたいね。エリナオ様と同じで私も大巫女だから長生きは出来ないけど、それに後悔は無い。でも、女であることを諦めて生きているわけじゃないから」


「うん⋯⋯そうだよね。大巫女だって人だもの」


 無理に元気そうに振る舞う大巫女リシータにたいして、プリエナも悲しそうに笑みを作り返す。


「⋯⋯ねえ、プリエナ?」


「何?」


 大巫女リシータがためらいながら慎重に言葉を選ぶ。


「もしね⋯⋯もし大巫女がいなくてもいい本物の世界があったら⋯⋯プリエナならどうする?」


「どゆ意味? クアドラ神の加護がある世界が本物でしょ?」


「そ、そうだよねっ! 何言ってるんだろ、私。あっ、ああー無崇邑に着いたみたい」


 誤魔化すように門を指差し、手前の車留めに馬車を停めさせたリシータ。

 不思議に思いながらも、ルシウスとプリエナは促されるままに馬車から降りた。


「じゃあね、プリエナ。また遊びにきてね」


「うん、わかったー」


 簡単な挨拶だけを済ませ、リシータたちはすぐに発車し、もと来たソーマ神殿へと帰っていった。

 馬車と護衛の聖騎士たちが巨大な吊橋へと曲がったことを確認してから、2人は一晩ぶりに家へと戻る。


「ただいま」

「ただいまー」


 2人は切り刻まれ、酷い有様の母屋を横目に、離れの扉を開けた。


 小さな玄関から見えるリビングのソファーでは、サイとタイラスが身を寄せ合いながら寝ている。

 もう昼過ぎだが、昨晩あった事件により、なかなか寝付けなかったのかもしれない。


 ソファーの横にある椅子にはアヌシュカが座っていた。

 最初は寝落ちしているのかとも思ったが、どうやら起きてはいるようだ。

 憔悴しょうすいした顔で2人を見上げるアヌシュカ。


「あれ、パラヴィスは?」


 ハっと目を見開いたアヌシュカが唇を浅く噛む。そしてぽつぽつと口から漏れるような声で答えた。


「⋯⋯奈落よ。もしかしたら⋯⋯帰って来ないかも」


「帰ってこない?」


 ルシウスは言葉の意味がわからず詳細を尋ねる。

 だがアヌシュカは何も言わず、椅子にかかとを乗せて、足を抱えたままだ。


 ――何かあったのか?


 ルシウスが疑問に思った時、庭から慌ただしい声が聞こえた。


「アヌシュカッ! 居るかッ!?」

「一体、どういうことだ!?」


 背後から現れたのは槍衆の第2席レイと第3席ラームだ。以前、喰鬼ブート狩りに同行したことがある。


 ルシウスとプリエナを押しのけるように家の中に入った2人が、アヌシュカを取り囲む。


「あいつが16区へ向かったってのは本当か!?」

「夜明け前に奈落の入口でパラヴィスと会った奴が居て、そいつからさっき聞いて飛んできたんだよ!」


 アヌシュカはうつむいたまま、消え入りそうな声で答える。


「⋯⋯16区から良業物を持ってくれば、剣衆が五刃軍の遠征を無くしてくれるって」


 第2席レイと第3席ラームの顔が青くなる。


「何考えてんだ、剣衆はッ!16区はスーリアがいる場所だろ!?」

「あそこには強い喰鬼が沢山いるって噂だ! はっ、早く助けに行かないと!」


 今にも駆け出そうとした第3席ラームの腕を、第2席レイが掴んで止めた。


「待て! 俺等なんかが行ったらすぐに殺されるぞ!」

「で、でもっ」


 慌てふためく2人と落ち込んだまま、うずくまるアヌシュカ。

 事情はよくわからないが、パラヴィスが危険な場所に行かされたことは理解した。

 ルシウスは今までパラヴィスに知られないようにしてきたのだが、そんなことを言っている状況ではなさそうだ。


「アヌシュカさん、奈落に降りる方法は?」


「⋯⋯インドラの眷属神がまつられた岩島の1つから降りるの。でも、ルシウスは無理よ。だって『同』が使えないもの」


「喰鬼に勝てない?」


 アヌシュカが小さく首を振る、


「いいえ、それ以前の問題よ。奈落に立ち込める黒い霧自体が毒なの。『同』が一定以上に使えない者は解毒が間に合わず、降りただけで死んでしまう」


「なるほど」


 ルシウスは考える間も置かず、剣を繋ぎ止めたベルトを固く締める。

 その様子を不可解そうにアヌシュカ、レイ、ラーム。


「ルシウス、何してるの?」


「よくわからないけど、パラヴィスは1人で強い喰鬼ブートと戦いに行ったんでしょ。なら手助けにいくよ」


「言ったでしょ、『同』が使えないと――」


「大丈夫」


 本気なのか、それとも悪い冗談なのかをアヌシュカたちが判断できない中、1人だけ平然と受け止めたのはプリエナ。


「夕方までには帰ってきてー。母屋も壊れてるから、色々準備も大変そうだし」


「わかった」


 まるで買い物にでも送り出すかのようだ。ルシウスとパラヴィスの無事の帰還を信じて疑っていない。


「え、ちょっと」


 信じられないとばかりに見る3人をおいて、ルシウスは1人、全力で走り始めた。

 斬られたへいを飛び越え、通りへと出る。


 ――インドラ神殿の周囲に浮いてる小島まで行くのは時間がかかるな


 無崇邑の通りを疾走するルシウス。


 一直線に向かう場所はむらの境界。

 活気から遠ざかり、正門とは真反対の方向である。出入り口ですらない。


 ただの落下防止用のさくが張られているだけの場所だ。

 柵の先に広がるのは真っ暗な奈落。

 真昼だというのに下は何も見えない。


「おい、あんた⋯⋯」

「何してる!? そっちは奈落だぞ!」


 近くに住んでいる人々が、全速力でさくに向かって走るルシウスへ声をかける。


 何も応えず全て素通り。


 さくを蹴り上がる。



 そして。



 奈落へと飛び込んだ。



 眼下には底も見えない深い大穴。当たり前の如く一直線に落下していくルシウス。


 水分を多く含んだ内臓が浮き上がり、下腹部に独特の違和感が湧き上がった。

 加速度的に落下速度を上げながらも、ルシウスは冷静に目の奥にある白眼魔核の魔力を解放。


 血管に血が巡るように、式の魔力が全身に行き渡る。

 皮膚の上に魔力の結晶が作られていき、全神経が拡張した別の存在と接続されていく。



 黒い塊と化したルシウスが、黒いもやへと突入。


 刹那せつな


 地面へと激突。



 爆音をあげて、地面を半球にえぐる。

 円の中心に在るのは、黒い鎧という無機質な外見でありながら、獣のような獰猛さと武人の矜持きょうじを秘めた式。



 蚩尤しゆう



 まるで階段から降りたかのように、すんなり歩き出した。


「ここが奈落か」


 太陽から届く光もおぼろとなり、薄紫色の霧に覆われて数メートル先も見えない。この毒性を帯びた薄紫色の霧が、上から見れば黒く見えるのだろう。


 蚩尤しゆうであれば弱毒など何の問題もないが、想像以上に視界が悪い。


 ――パラヴィスの魔槍を探せ


 指示に応えるように蚩尤が気配を感じ取ろうと、感覚を研ぎ澄ます。


ッ」


 直後、頭を殴られたような鋭い痛みが走った。膨大な情報を無理やり流し込まれるようにして、なだれ込んできたのは無数の魔武具の気配。


 ――数が多すぎる


 初めて感じる情報が多く、精確な位置もその階級もわからない。


 だが、その中に1つだけ。

 知った気配があることを蚩尤しゆうは見逃さなかった。


「あっちか」


 気配がある方へ、足を向けた時。

 首の後ろから肩にかけてゾクッっとした悪寒がほとばしる。


 ――殺気


 眉間みけん目掛けて、一直線に何かが向かってくるのだ。

 反射的に体を少しだけずらすと、高い風切り音を立てて、飛来した物が通り過ぎていった。


「矢か」


 弓矢が向かってきた方へと体を向けると、強烈な気配が近づいて来た。


 霧の中から現れたのは紫色の肌に、破れた衣服と壊れた鎧をまとった異形。

 角の生えた髑髏どくろ頭の魔物。


 喰鬼ブートである。


 その喰鬼ブートが手にした魔弓は外苑の森では見たこともないほど、不気味な存在感を漂わせている。


 下手をするとルシウスの程度だろう。


 ――無視もできないか


 無視したところで背後から打たれるだけだ。


 蚩尤姿のルシウスは、周囲を浮遊する6枚の鉄板の1つに手を当てる。

 すると鉄板が2つに分かれ、白黒の双剣の形をとる。


 現れた双剣を素早く両手で掴み、構えた。


「一瞬で終わらせる」


 ルシウスが前に倒れ込みながら、地面を蹴る。


 加速。


 地面が砕け、蚩尤しゆうの巨体に押し出された空気が破裂音を響かせた。

 以前では考えられなかったほどの俊敏さだ。


 だが、魔弓の喰鬼ブートもさる者。

 一切の気後れなく、次の弓を絞っている。


 そして膨大な魔力と人外の力を溜めた弓矢を放つ。


 空間を裂くように真っ直ぐに飛翔する弓矢は、瞬時。



 蚩尤へと到達。



 だが、その矢が黒い装甲に刺さることはなかった。


 ルシウスが真っ二つに切り裂いたからだ。


 喰鬼ブートおののいたように半歩後ろに下がるが、気を取り直して再び弓を絞り始めた。


 時すでに遅し。


 喰鬼ブートが弓ごと輪切りにされた。


 崩れ落ちた魔弓と喰鬼の身体は、すぐさま塵芥ちりあくたとへ還っていった。

 代わり蚩尤に流れ込む力は、昨晩倒した外苑の森のボス喰鬼ブート(暫定)を超えるほどだ。


 「進もう」


 パラヴィスの気配を辿ろうと振り向く。


 その時、霧の先に異様な気配を感じる。

 チャリチャリと金属が擦れ合う音を立てて、奥の霧から現れた者たち。


 喰鬼ブートの群れである。

 それも10や20ではない。


 50体、いや下手をすればもっと居る。


 群れと呼ぶには数が多すぎた。


喰鬼ブートの軍か」


 ルシウスの姿を捉えたためか、各々の魔武具を構える。

 

 目の当たりにした蚩尤の感覚からすれば、最低でも真打物。業物もそれなりに混ざっているように感じる。


「今は急いでるんだけどな」


 双剣を地面へと突き刺し、ルシウスが左手をかざすと、喰鬼ブートたちの魔武具を持った腕が下がった。

 魔武具の重量を、手では支えきれないかのようだ。


「圧黒の術式」


 さらにルシウスが左手に魔力を込めると、重力に負けて次々と喰鬼ブートたちがひざを着いていく。


 ――ここでなら使えるか


 次は右手をかざし、魔力を込める。

 すると右手から球形の赤い光が撃ち出された。


 放たれた光弾が動けなくなった喰鬼ブートの群れの真ん中へと着弾。


 すぐに周囲に目をおおわんばかりの赤い光が包み込んだ。

 かろうじて見えるのは、光に侵食され、喰鬼ブート達の体の一部が石化し、腐りただれ、紫の血が吹き出し、影のようになり、穿孔せんこうが開く姿だ。


 呪いである。


「災光の術式」


 砲魔サマエルから貰い受けた特上の光の術式。


 災光の術式は強い破壊力を持つと同時に呪いを振りまくのだ。たとえ、それが人でないものであったとしても魔力量が少なければ発動する。

 ゆえに誰かが近くにいる場所では使えないのだが、奈落ならば問題ないだろう。


 だが、その光は禍根かこんを遺さない。


 周囲の紫色の霧まで真っ赤に染め上げた光が、急激にしぼみ始めたのだ。


 すぐさま完全に光がたち消え、一瞬の静寂せいじゃく


 そして突如、先ほどの数倍の閃光を伴って破裂音をとどろかせたのだ。


 まるで炸裂弾。

 凶悪な衝撃となった光が喰鬼ブートを裂き貫く。


 喰鬼ブートだった肉片、魔武具であった金属片、地面だった岩屑がんせつが一体に降り注いだ。


 50体はいた喰鬼ブートが一気に10体ほどに減る。

 残ったのは業物の魔武具を持つ喰鬼ブートだけのようだ。


「来い、邪竜」


 次は左手の魔力を解放しようとしたとき、一気に喰鬼ブートの力が流れ込んできたのだ。

 

 


 サマエルには喰鬼ブートの魔力を喰らっても、自身の力に変換する術はない。

 ただ瘴気を不味まずそうにするだけだ。


 ――術式の元になった式に魔力が流れるのか


 ルシウスは顕現しかけた邪竜の魔力を散らす。

 久々の顕現と闘争をくじかれる形となった邪竜がひどい苛立ちと不快感を覚えたことが騎手魔核を通じて伝わった。


 ――仕方ないだろう


 邪竜が喰鬼ブートを倒しても、力にはならないのだ。


「折角なら蚩尤の力に成ってもらう」


 ルシウスが4つ瞳で残った者達を睨みつけると、喰鬼ブートは素早く陣形を整えた。どうやらルシウスが強者であることを正しく認識したようだ。


 盾を持った喰鬼ブートが最前に立ち、そのすぐ後ろに剣、槍、杖と続き、最後方に弓を据える。


 基本となる陣形なのだろう。

 確かに理にかなっている。


「普通の武器だったら、な」


 地面へ突き刺した双剣を鉄板に戻すと、次は槍を取り出した。

 

 最上大業物の魔槍。

 銘を骨影。


 素早くを槍を手に取ると、前へ向けたまま一直線に走り出すルシウス。

 最初に弓の喰鬼ブートを制した動きよりは俊敏ではないが、力強い走りである。


 そして、何のためらいもせず、盾ごと喰鬼ブートを貫いたのだ。


 槍が突き刺さった喰鬼ブートが不自然に身体をくねらせると、その背中から10本ほどの槍が内側から吹き出した。


 自己複製の術式。貫かれた者の骨と魔力を喰らい、自らを作り出すという、形態変化系の中でも極めて高等な術式である。


 背後にいた喰鬼ブート達が唖然としたように硬直した。


 攻勢は止まらない。

 ルシウスの影から、黒い鎧の腕が幾本も伸びる。

 そして、喰鬼ブートの背から生えた槍を掴むと、力任せにもぎ取ったのだ。


 影からい上がってきた鎧たちが槍を構える。


 鎧兵。

 蚩尤の術式にして、古き竜騎士たちの技を宿した者たちである。


「駆逐しろ」


 命令のまま他の喰鬼ブートへと次々に向かって襲いかかる。


 慌てて応戦する喰鬼ブートにすぐさま数体ほどの鎧兵が斬り伏せられた。


 だが、数が違う。


 ルシウスの足元の影から、とめどなく現れる鎧兵たち。


 喰鬼ブートが1体の鎧兵を倒した所に、3体の鎧兵が襲いかかり仕留める。仕留めた喰鬼ブートの身体と魔力を触媒に、さらに増えた槍を次々と手にする鎧兵たち。


 指数関数的に増殖していく槍持ちの鎧兵は、瞬く間に100体ほどの軍となった。

 すでに動く喰鬼ブートは一体もいない。


 それでも、立ち込める気配は濃さを増すばかりである。


 ――ま、そうだよな


 倒した群れの奥から、また次の群れが押し寄せる。


「雑魚は任せた」


 鎧兵たちが迫る喰鬼ブートの群れの前に素早く隊列を組み、相対する。

 すぐにでも戦いが始まるだろうが、数でも、武器でも、こちらが勝っている。しばらくは時を稼いでくれるだろう。


 再度、パラヴィスが持つ魔槍の気配を辿ろうと別の方向へ足を進めると、またも多くの魔武具の気配を感じた。


 通常、奈落は長い年月を掛けて開拓され、喰鬼が間引きされたルートを通る。


 ルートから足を踏み外すこと自体、死と隣り合わせの行為。ましてや適当な崖から降りて、一直線に目的地へ突っ切るなど自ら喰鬼ブートの大群に飛び込むようなものである。


「どれだけいるんだ、まったく」


 仕方なく双剣を握り、気配がする霧の中へ飛び込んだとき、想定とは違う景色が広がっていた。


 ――なんだ、これ?


 数十という喰鬼ブートたちが、皆、倒れているのだ。


 さらに不可解なことに喰鬼ブートたちは白目を向いて、ビクビクと小刻みに痙攣けいれんしている。眼球が無い骸骨だが、そうとしか見えない。


喰鬼ブートが毒にでもやられたのか」


 探るように辺りを見回すと、倒れた喰鬼ブートたちの中心に何かがいた。


 ルシウスは咄嗟に剣を構える。


「⋯⋯あるじ⋯⋯いた」


 その声は聞き覚えがあった。

 むしろよく知っている。


「ソル!? どうしてここに!?」


 1人立っていたのは、ルシウスの傀儡ソルである。


「主⋯⋯追ってきた」


「危ないだろ、こんな所まで付いて来て」


 剣を降ろし、慌てて傀儡ソルの元へと駆け寄るルシウス。

 蚩尤を纏ったルシウスと、か細い少女姿のソルが並ぶと、虎と子猫のような歪な光景に映る。


「⋯⋯主の近くに⋯⋯隠れてる」


「たまたま喰鬼ブートたちが何かで倒れてたから、良かったけど」


 もちろん傀儡ソルの術式、無窮誣告界むきゅうぶこくかいに掛けられたからである。

 哀れな喰鬼ブートたちは精神と肉体が切り離され、死がリセットトリガーの世界に幽閉されている。今頃、壊れた魔剣を手に、無限に現れるゴブリンたちの群れと戦い、終わりのない死に明け暮れている頃だろう。


「まあ、いい。後で鎧兵が狩るだろうから。ともかく今は急がないと」



 ルシウスはソルを連れて走り始めた。


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いつもお読みいただき、ありがとうございます。

共和国編を、なんとか年内に終わらせられるように頑張ります。

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