第141話 ヴァルナ神殿

「これは⋯⋯双剣?」



 2振りの剣は瓜二つで、溶けてしまった光の宝剣と姿はほぼ同じ。

 おそらく2つで1つの魔剣なのだろう。


 ――良かった


 まずは溶けて消えた宝剣が、ほとんど同じ形で戻ってきたことに安堵するルシウス。


 次に目を引いたのは刀身の色。


 片方の刀身は純白。見る角度によっては赤みがかった光を反射して輝く刃だ。

 もう一方は漆黒。銀色に淡い鈍色にびいろの光を漏らす黒い刃。


 さらに以前とは違う部分が1つ。


つかが変わってるな」


 以前、宝剣のつかにあったグリフォンの羽が消失している。


 その代わりに新たな装飾が施されていた。


 白い剣には、妖精王を思わせる白い鳥の羽。

 黒い剣には、邪竜のコウモリのような黒い羽。


 苦笑いを浮かべるルシウス。


 ――邪竜がサマエルを嫌った結果か


 双剣になったのは、2つの魔力が混じり合うことを拒否したからだろうか。


 正直に言えば片手剣の方が使い慣れている。変わらないほうが良かったが、振られたサイコロへ文句を言っても仕方がない。


 ――ともかく魔力を流してみよう


 まずは白い剣。

 薄っすらと赤い光を帯びた。

 刀身の表面には、赤い光がい、模様を浮かび上がらせる。


 光の術式だ。


 意匠いしょうは違うが、帝国が使う魔導具も同様に青白い光がっていたことを思い出してしまう。


 一方、黒い剣。

 わずかに黒いもやをまとった。


 間違いようがなく、闇の術式である。


 術式は当初の狙い通りである。

 おおむね満足して、剣を観察するルシウスの横で、パラヴィスが渋い表情を浮かべた。


「⋯⋯多刃たじんの魔武具」


「多刃?」


 よく見ると、パラヴィス以外にも神祭司も観衆も、皆一様に引きつっている。


 ――なんだ?


 周囲の反応に置いてけぼりにされたルシウス。


「多刃など数十年は出ていない凶具。かつ属性の術式とはな。これほどがあったとは⋯⋯」


 剣衆のナサールも罵倒ばとうすることを忘れ、引きつっている。


「パラヴィスの弟ルシウスよ。知っているだろうが、多刃の魔武具は忌避されるもの。その上、属性剣とは。もう一度、作り直そう」


 当たり前のように神祭司たちが再度儀式を行う準備を始める。


「双剣⋯⋯多刃?でしたか。その魔武具だと性能が悪いのですか」


「私も目にするのは始めてだが、鍛錬が分散するため難しくはなると言われている。だが、何よりにより聖戦士たちにとって忌避されるものであることは知っておろう」


 神祭司が手を差し伸べた。

 魔剣を大釜おおがまに入れろということだろう。


「いえ、これでいいです」


「なに!?」


 神祭司も、群衆も騒然とする。


 共和国の慣習に習うために、もう一度、愛剣を溶かすなど忍びない。

 郷に入っては郷に従うべきと考えるが、従えることと従えないことがある。


 さらに属性系の術式はルシウス自身が長く慣れ親しみ、使い勝手の良さを知っている。


「これで問題ありません。ありがとうございました」


 ルシウスは礼をして、後ろへと下がる。

 すかさず横に並んだパラヴィスが止める。


「本当にいいのか!?」


「いいよ。これで」


「悪いことは言わない。もう一度作り直せ」


「大丈夫です」


 すたすたと後ろへ歩き続けるルシウス。

 そのルシウスを詰めかけ説得するパラヴィスの横に、観衆に混じって見ていたプリエナが静かに並ぶ。


「パラヴィス、多分無理だよ。ルシウスって、温和だけど根は頑固だから。一度決めたら譲らないタイプだよ〜」


「だがな!」


「ムリムリ」


 プリエナは手を振る。


「はぁ、そんな所までアイツに似てるのか」


 額に手を当てたパラヴィス。


 その様子に神祭司たちも、やれやれと、ため息混じりに片付けを始めた。

 元々最下級の魔力しか持たぬ――と思われている――ルシウスに対する興味などたいして無いのだろう。


 観衆が解散していく中、ある男だけがルシウスの背中を睨みつけていた。

 剣衆の第3席ナサールだ。


 その視線にルシウスは気がついてはいるのだが、相手にせずホールを後にする。

 パラヴィスとの因縁に首を突っ込むつもりはない。



 2人を連れて、その足で向かった先は、聖都の市場。


 当然、新たに生まれ変わった魔剣のさやを求めてだ。抜き身の刃をそのまま持ち続けるなどありえない。1本だった片手剣が2本に増えてしまったため、鞘が足りないのだ。


 パラヴィスのオススメで、鞘の品揃えが良い店へと案内してもらった。


 武具屋に入って店を見回すルシウス。

 鞘の形や大きさは品揃えが多く、多種多様。専用のさやをわざわざ特注する必要がないほどだ。


「さすがに魔剣の聖地だな。さやがこんなに沢山⋯⋯というかさやしかない⋯⋯」


 普通の武器屋であれば武器本体はもちろん、刀油や研磨石、布、紙など売っているのだが、見事に魔剣の鞘に加え、槍、弓、盾、杖などのホルダーだけが売られている。

 内心、店で売っているという魔武具も見てみたかったのが本音だ。


「この店は魔武具を売ってる場所じゃないからな。その代わり品揃えがいいぞ」


さや専門店? メンテナンス用品とかは?」


「そういう普通の金物系の商品を売ってる店は少ない。魔武具は魔力を与えれば自動修復されるんでサビや多少の欠けを気にする必要がないからな。その代わりさやに、こだわる奴が多い」


 さやつかにデザイン性を求めるのは共和国だけではなく王国でも多かった。戦闘時以外はそちらの方が目に付くからだ。


 ――魔剣って自動修復機能がついているのか。ちょっと残念だな


 元あった宝剣は壊れた魔剣のつかに、普通の鋼の刀身を付けたものだった。普通の刀身は、放置すればすぐにび、みがかなければ鋭さも失われる。


 そのため日々のメンテナンスを欠かしたことがなかった。それ自体は嫌いではなく、むしろコツコツとした作業は好きですらあった。

 

 だが、必要ないのであれば仕方ない。

 気を取り直し、陳列されたさやの中から剣の形に近いものを選ぶ。

 手に取った鞘に、布から取り出した黒い剣を収める。


「ぴったりだ。よし、これ下さい」


「はいよ!」


 少し奥にいた店主が元気よく答えた。

 

 とは言っても、言ってもすぐに買えるわけではない。共和国の貨幣を持っていないため、銀で買わせてもらうために交渉する必要がある。


 「先に出とくねー」


 プリエナとパラヴィスは一足早く店を出ていった。


 為替かわせにより換金が出来ない他国へ渡る場合、金よりも銀が使われることが多い。

 金は貴重であるが、時勢や地域によって価値の変動が激しいため、安定性が欠ける。だが銀は装飾品以外にも食器などの日用品に用いられることもあり、価値のぶれ幅が少ないのだ。


 その後、交渉を続けて合意した量の銀を店主へと渡すルシウス。


「兄ちゃん。これもつけとくよ!」


 店主が差し出したのは、鞘を腰へ結びつけるベルトだ。予算が足りなかったためしばらくは皮紐かわひもで代用するつもりだった。

 仕立ての良い皮のベルトで、しっかりと剣と鞘を固定できそうだ。


「え? いいんですか?」


「今日は縁起が良い日だからな。 その代わり贔屓ひいきにしておくれよ。最高級の金細工を施したさやもあるからな」


「ありがとうございます」


 ルシウスは受け取ったベルトを腰に巻き、剣と鞘を装備する。

 剣2本分ともなれば、少し重さを感じるが負担になるほどではない。


 気になることは他にある。

 以前の宝剣より力を感じないのだ。おそらく生まれ直しにより1度全てがリセットされてしまったのだろう。

 だが、これまでの話からすると、魔剣を鍛える方法があるようだ。


 再び店主に感謝を伝えた後、店の外にいた2人と合流する。


「これもらっちゃった。聖都は良い場所ですね。優しいというか、穏やかというか」


「まぁな。共和国と言っても、結局はノア教徒の教えを守る者ばかりだから、 政治も民もそれほど大きないさかいは起きない。となると、皆、どこかおおらかになるのさ」


「なるほど。でも王や貴族がいないと言うのは不思議な感覚だな」


 前世にもいなかったのだが、この世界に慣れすぎたルシウスにとっては、逆に新鮮であった。


「俺からすれば、指導者の方針がコロコロ変わっても、国が立ち行く方が不思議だ」


「良し悪しなんですかね。ともかくベルトには感謝しないと⋯⋯でも」


 ルシウスが真剣な眼差しでプリエナへと目をやる。


「なに? なにか問題ありあり?」


「⋯⋯路銀が尽きた」


「なんですとーッ!?」


 驚愕するプリエナの代わりに答えたのはパラヴィスだ。


「だったら、 森で喰鬼ブートを狩ることだ。 手に入った裏返った魔武具は金に変えてもらえるぞ。俺もだが、無崇邑むすうむらでも多くの奴がそれで生計を立ててる」


喰鬼ブートを狩れば金になるのか」


「ルシウスの腕なら外苑がいえんの森程度は問題ないだろう」


 悩ましい。

 喰鬼ブートが所持する裏返った魔武具は蚩尤しゆうの栄養にしたい。

 それでも生活費は必要だ。


「パラヴィス。喰鬼ブートて狩り過ぎたらまずいことある?」


「いや、全く無いな。むしろ共和国にとってはいかに喰鬼ブートを減らすかが課題だ」


「よかった。なら一体残らず、狩ればいいか」


 力こそパワー。

 もともと蚩尤しゆうが満足する魔武具が手に入るまで狩り続けるつもりであったが、その行為がパラヴィスたちを困らせないのであれば、もはや何のうれいもない。


「こいつは大きく出たな! ついでに外苑の森だけじゃなくて、奈落の喰鬼ブートも全部頼みたいもんだ」


「分かった。森の喰鬼ブート狩り尽くしたら奈落に行くよ。そっちも全部狩っていいんでしょ?」


 パラヴィスが吹き出すように笑みを浮かべた。


「ははっ! 自信ってのは戦士にとっては大事な素養だ」


「ルシウス、頑張って〜」


 プリエナが他人事のように、背中をポンと叩く。


「プリエナは働かないの?」


「私はサイの世話があるから。それに共和国に連れてきたのはルシウスでしょ? 責任取ってー」


「ん⋯⋯そうか?」


 疑問に思うルシウスの肩にパラヴィスが腕を回す。


よめの為にしっかり稼げな。明日は狩りを教えてやる」


「嫁? まあ、ともかくパラヴィス、色々とありがとう」


「おうよ! それに⋯⋯その、何だ。魔力量はこれから育てられる。あんまり気にしすぎるな」


 励ましてくれているのだろう。


 先程の鑑定は、パラヴィスにとっても衝撃的だったのかもしれない。

 おそらく赤子のときから一切、魔力量が増えていない不憫ふびんな人間だと勘違いされてしまった。


 だが、弁解する言葉は口にしない。

 今、魔力量の説明を重ねてもしかたない。むしろ目立たぬほうがいい。


「うん。ついでに魔剣を鍛える方法も教えてよ」


「任せとけ。よし、これでルシウスの問題は片付きそうだな。あとは⋯⋯」


 パラヴィスが振り返り、岩山の頂天へと目をやる。


「サイが命を狙われてる話?」


「ああ、あいつらの話が嘘だとも思えない。だが、神殿はいつも通りだった。ってことは」


 パラヴィスが飲み込んだ言葉の続きは、予測できる。


 一般の人間が目にできる部分では、変化がない。

 となれば、もっと深い部分。つまり中枢に近い所で何か異変が起きている可能性があるのだ。


むらに帰ろう」


 3人が、その街を後にしようとした時。




 強烈な寒気を覚えた。




 ――これはッ!?



 凄まじい気配を放つ上空へとハッと振り返る。


 目に飛び込んだのは、巨大な魔方陣。

 山頂の神殿を覆い尽くすかのような魔方陣が、雲を隠すように空に浮き上がっているのだ。


「何だ、あれ」


「あれはクアドラ神の1柱。幻水神ヴァルナね」


「ヴァルナ?」


 プリエナの声に振り向くと異様な光景が広がっていた。

 

 街の人やパラヴィス、そしてプリエナも驚いた様子がまるでない。

 驚いているのは、ルシウス1人だけだった。


 皆、冷静に魔方陣へ祈りの歌を捧げている。


 これ程に強烈な気配を感じたことは人生で1度しかない。


 サマエルと対峙したときだ。

 戦った塔主と呼ばれる砲魔よりも上級の存在であり、サマエルに近しい存在であることは疑いようがない。


 だが、その超越した存在を眼の前にしながら、街の住民は一切、戸惑っていないのだ。


 ――わからないのか!? この異常な魔力が


 疑問を覚えつつ、再び、視線を上空へと向けた。

 先ほどは驚きで細部まで目が行かなかったが、よく見れば同じような魔法陣を見たことがある。


 巨大な魔法陣の中に何かがいる。


 半人型の魔物。


 上半身は装飾具を身に付けた美丈夫びじょうふで、下半身が人魚のように魚となっている。

 だが、その下半身には、竜を思わせるような手足を持っており、鋭い爪を見せていた。ワニと言った方が適切かもしれない。



「やっぱり⋯⋯クアドラ神は詠霊だったのか」



 幻水神ヴァルナは、まるで水に満たされた亜空間の中から、こちらの世界をのぞいているようだ。


 さらに目を凝らすと、空を飛ぶ小さなものがある。

 

「女の人だ」


 遠くて良くは見えないが、まだ若いように見える。少なくとも老婆ということはないだろう。

 女は横たわったまま空を飛び、魔方陣へと吸い込まれていく。


「先代の大巫女ね。立派な方だったわ」


 プリエナが哀悼あいとうの意を示すようにノアの拝礼を行った。


「先代?」


「式との契約に基づいて、その亡骸なきがらを与えているの」


「大巫女が亡くなったのか⋯⋯でも」


 先ほどヴァルナ神殿で会った他の大巫女達は、そのためにあの場を訪れたのだろう。


 ルシウスは街の様子をふたたび見る。

 

 なおのこと理解できない。

 皆、慣れた様子である。


 自分たちの信仰の対象が亡くなったのであれば、 もっと悲壮感に包まれているものではないのか。


 ――確か、さっき店主が『縁起がいい日』だって⋯⋯


 どうしても大巫女の死と縁起が良い日という言葉が繋がらない。


「大巫女が亡くなることは、よくあるからね。下手すれば毎年。少なくとも数年に1度は起こることだから」


「大巫女は短命なのか?」


 ルシウスが知る限りクアドラ神は4体しかいない。ということは大巫女も4人のはずだ。それが数年に1度亡くなるのであれば、どれだけ短命なのか。


 プリエナの仮面の下にある瞳がルシウスを見据える。


「特級中の特級の魔物との契約。契約の為に負う誓約が、すごく重いって言えばわかる?」


 魔物を式とする契約では、いくつかの約束事がある。


 式は契約者に術式を与える。

 式は契約者に顕現させる権利を与える。


 契約者は式に魔力を与える。

 契約者は式に自らのむくろを与える。


 お互いが与えるものが釣り合っていれば、何の問題もない。

 しかし、釣り合っていない場合は、契約者側は何かしらの誓約を抱える必要がある。


「もしかして⋯⋯命を、寿命を誓約に加えたのか!?」


 プリエナが首肯する。


「大巫女と言えどクラドラ神とは釣り合わない。だから命を与えるの。世界の為に」


「そんなのただの生贄いけにえじゃないか! 何で、皆、普通に見てるんだ!?」


「説明したでしょ。契約者はクアドラ神の化身。その化身が生を終えて、本来の姿に還るという誉れある儀式なのよ」


 言葉の意味が理解できず、目を逸らすように周囲を見回したルシウス。


「今代の大巫女様は長く生きたね」

「15年も化身として頑張られたからな」

「それはお疲れでしょう。ヴァルナ様の元へ還られて安らかになさってほしいですね」


 つい先程まで、優しく、おおらかな人だと思っていた人たちが、 酷くいびつな姿に映る。

 

 まるで人の死を祝福しているかのようだ。


 確かに式は自身の半身である。だが命は別であり、別々の人格を持つ。

 契約によって死を超越できるわけではない。


「次の巫女様は誰になるのだろうね」

「そう言えば、とても優秀な巫女候補がいるって噂があったけど」

「お! それは楽しみだ!」


 その言葉に唖然とするルシウス。


 ――もう次の誰かに契約させるつもりなのか!?


 サマエルに近しい存在の魔物と契約する人材を用意しているとしか聞こえない。


 あれは命を与えることでしか降せない存在だ。

 相性も何もあったものではない。


 事実、ルシウスもサマエルと契約する際に誓った。


 いつか来るであろう『世界の主』に対して反逆はんぎゃくすることを。


 間違いなく命を賭ける行為である。

 結果、命を落とすかも知れない。


 それでもルシウスには守りたいものがあった。自分の命をすに足る大切なものが。


 だが、それは決して他人に無理矢理負わされるものではない。


「⋯⋯無茶苦茶だ⋯⋯おかしすぎる」


「おかしくない。だって、そうしないと世界が滅びるから」


 プリエナの瞳は至って真面目だ。


「信じてるのか!? クアドラ神がこの世界を維持してるって」


「事実だよ。アグニがいなければ暗闇と冷気に閉ざされる。インドラがいなければ風は止み、雷鳴は轟かない。ヴァルナがいなければ、水は循環を失い、腐敗する。ソーマがいなければ、植物や虫たちは息絶える」


「いや! 太陽は宇宙あって、地球に太陽光が――」


 そう言いかけた時、言葉が止まった。


 太陽があり、風があり、水が流れ、木々が生い茂る。

 それらが前世と同じ仕組みによって成り立っていると、漠然と考えていた。


 だが、サマエルが見せた精神世界での出来事はどうだ。

 空を割って入ってきた『世界の主』がいた。


 冷静に考えれば、魔力という力があり、ドワーフたちの迷宮により魔力がろ過されている世界。塔などという神が造った建造物がある世界。


 この世界には世界の法則があるのかもしれない。


 戸惑うルシウスへと優しく語りかけるプリエナ。


「ルシウスにもわかるよ。この世界は美しい。けど、それはとてもあやうい仕組みの上に成り立っている。だから尊いの。大巫女も、クアドラ神も」


 ルシウスはもう一度の上空にある魔法陣を睨む。

 その中に先代大巫女の亡骸なきがらが完全に吸い込まれると、魔法陣がフッと消えた。


「ヴァルナが神殿のやしろに還ったのね」


 街に歓喜の声が木霊こだまし始める。


 一大イベントが無事に終わったことを街全体で祝福しているのだろう。

 来た時よりも明るい雰囲気が漂う岩山の街が異様だ。若くして命を散らした人がいたというのに。


 ノアにはノアのやり方がある。


 そうは理解しながらも。



 街から目を背けるように、一人、吊橋へと向かったルシウスであった。

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