第26話 目指したい道 1

 ゴールデンウイークも終わり五月も二週目。

 幸い二人は五月病なんかにならず以前同様元気に学校へ投稿している。

 そんな時、俺のスマホへ知らない電話番号から着信がかかった。

 

「もしもし」

「あ、優斗くん? 久しぶり、加奈子です」

「…………えっ、加奈子さん!?」


 電話の相手は神崎加奈子。そう、奏と湊のお母さんだ。


「連絡するのが遅くなってごめんね。本当はもっと早く連絡するつもりだったんだけど忙しくて。そっちとの時間差もあるでしょ」

「あ、いや大丈夫ですけど。どうしたんですか?」

「大したことじゃないんだけどね。お父さんと話しててね。二人にはこれから何か目指してほしいな~って思ってて」

「何か……ですか」

「ほら、二人とも結構日常を楽しめるタイプでしょ。それはそれでいいんだけど、やっぱりこれから勉強したり大学に行くうえで何か見つけてほしいの」

「夢ってことですか」

「そうそう。でも、親がこれをしなさいっていうのは何か違うでしょ? だから、それとなく二人に聞いてみてほしいの。音楽の道ならサポートしてあげられるけど、素直に二人が音楽するとは思えないし」


 奏と湊は幼少のころは音楽を習っていた。

 しかし、いつの日か音楽から離れてごく一般的な少女として過ごし始めた。

 そのきっかけは俺にはわからないが、二人なりに何か思うところがあったのだろう。


「幼馴染の優斗くんに頼むなんておかしいのはわかってるけど、私たちは二人と離れていて肌感覚で二人の気持ちを感じ取ることができないから。いま一番近くにいる優斗くんにお願いしたいの。それに二人も優斗くんのほうがそういう話をしやすいかなって」


 加奈子さんはうちの母さんととても仲がいい。二人ともどこがずれているところはあるが筋は通す人で、目的に対して熱意をもって突き進む。うちの母さんもだが加奈子さんも、自分のことになればどれだけ辛くても苦労を厭わないのに、子どものことになると結構不安になるようだ。


 うちの母さんは刹那が人見知りで俺から離れないのを見て、どうすればいいかと俺に尋ねてきた。むしろ俺のほうが聞きたいくらいだったが、刹那と話しているうちに、刹那は知らないことへの恐怖心というのが強いことに気づいた。それから二人でいろんなことをして、小学校高学年のころには、いまのしっかりな姿に近づいたのだ。


 その経験から奏や湊の目指したいことを聞き出せるかもしれない。


 16時過ぎに二人は帰ってきた。奏の元気な声と湊の淡白な声がハモるように「ただいま」と玄関からリビングに届く。


 二人ともお茶をコップに注ぐとソファに座り一息ついた。俺はキッチン側にあるテーブルの方から二人に声をかける。


「いつもよりちょっと遅かったな」

「部活見てたの」


 これはちょうどいい。気になる部活からやりたいことの話へ広げられるかもしれない。


「何かいい部活はあったか?」

「どれもこれもパッとしないものばかりですよ」

「えー、文芸部に興味持ってたじゃん」

「あれはドキドキな場所かと思ったわけですよ。カップケーキが出てきたのだから」

「奏は興味ある部活なかったのか?」

「う~ん。合唱部はちょっと気になったけど、想像してたよりもかなり本格的でびっくりしちゃった。あと、演劇部も気になったかも」


 どうやらスポーツよりも文化系の部活のほうが二人にとって興味の対象になっているようだ。


「あっ、そういえば写真同好会も見てきたよ」

「新しくできたのか」

「ゆーくんが学生の頃はなかったの?」

「なかったよ。奈々が生徒会長をやってるころに作らないかって話をされたけど、結局作らず卒業したから」


 それは、俺が三年生の頃の話だ。


 

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