第25話 奏と湊のライバル? 3

 芳香さんは夜まで神崎家にいた。

 

「では、そろそろ帰るとするかな」

「結局みまわりほとんどやってないですけど大丈夫だったんですか?」

「ああ、大丈夫さ。近くで仕事をしていた知り合いに軽く見回ってもらったからね」

「あ、送っていきますよ。車ありますし」

「私を女性として扱うとは君も紳士だね。でも、大丈夫だよ。歩かないと見えないものもある。高速で流れる景色では見えないものがね」

「は、はぁ」

「そう変な顔をするんじゃないよ。夜の散歩も面白いということだよ」


 玄関まで見届けると、ドアノブに手を掛けた瞬間、芳香さんはこっちみずに言った。


「君が大人になるなら、あの二人をしっかり見てあげなさい。動き、考え、感情。気を配りなさい。かつて自分が通った道を頭の中で振り替えるのは難しい。でも、いまならそれができるはずだからね」


 そういうと芳香さんは出ていった。

 

 最後の最後までよくわからない。

 

 風呂に入り、髪を乾かして寝ようかと思い、戸締まりして自分の部屋に戻ると、奏と湊が俺のベッドの上に座っていた。さらに床には刹那が止まりに来た時の予備の布団が敷かれてある。


「あ、遅かったね」

「待ちくたびれましたよ」

「なんでいんだよ。てか起きてたのか」

「今日はここで寝るから」

「……はぁ?」

「優斗は床で寝てください」

「いや、お前ら部屋あるだろ」

「たまにはいいじゃん」

「……まぁいいか。ほらさっさと寝るぞ」


 電気を消し横になると、二人は仲良く俺のベッドで寝た。

 何か最近俺のベッドは俺以外の人が寝ることが多い気がする。

 さっきの芳香さんの言葉を思い出した。気を配りなさい。いま、二人は何を考えてここで寝ようとしたのか。考えてみてもわからない。ただ、不思議と嫌な気持ちはしない。むしろなぜか嬉しい気持ちがある。


「ゆーくん寝た?」

「寝てる」

「擦られたボケですね」

「ボケたつもりはない。眠いんだよ」

「明日の朝ごはん私たちが作ってあげるよ」

「どうした急に」

「ゆーくん、いつも私たちのこと見てくれてるでしょ。明日は休み最後だし、ゆーくんにはゆっくりしてほしいなって」

「神崎姉妹の粋な計らいというやつです」


 まるでこれは幼馴染というよりも、父親になった気分だ。

 人から無償で何かしてもらうことに対し、以前よりも心が満たされる気がする。これもまた大人の感情なのだろうか。


「じゃあ、明日はゆっくり寝かせてもらうよ」

「えー! それじゃあ朝ごはん食べられないじゃん」

「だってゆっくりさせてくれんだろ」

「それとこれとは別です」

「そうかい。なら、二人ともしっかり起きてくれよ」

「「はーい」」


 芳香さんとどんな話をしたのか。気にならないといえば嘘になる。だけど、おそらく芳香さんは二人に何かアドバイス的なことをしたのだと思う。俺の経験から推測したものだ。だからなのか、それとも気まぐれか。明日は二人が何かしてくれるそうなので俺はそれに身を任せるとしよう。


 次の日の朝。

 俺は窮屈な寝苦しさに襲われ目が覚めた。


「……なんだ?」


 体を右に動かそうとすると柔らかいものに肘があたった。

 左に動かすと柔らかいものはなかったが何かにあたった。

 両側に何かがある。目を開けてまずは右を見た。そこには奏の顔があったのだ。もしやと思い左を見ると、湊がいる。二人とも俺の布団に潜り込んでいたのだ。がっちりとホールドされた両腕はは簡単に動かせそうもない。


「二度寝するかなぁ……」

「ゆーくん、いま肘があたったよ」

「起きてたのか。悪い、まさか横にいるなんて思ってなかったから」

「今、左側には右側にあったものがないと思いましたね」

「お前も起きてるのか。いや、まぁうん。感覚は違ったな」

「あとでデスソース入れますから」

「やめてくれって。……で、これどうするんだ?」

「あとちょっとだけこうしたい」

「奏に同感です」

「何かとまずい気がするんだが」

「私はいいよ」

「私もです」


 意識をすると自身の心臓の鼓動が聞こえてきそうだった。

 これはあれだ、湊を看病した時の鼓動の激しさと同じものだ。

 俺はこの二人に対して、どんな感情を抱いているのか。俺自身理解できなかった。


「あ、あのな。俺も男なんだ。あまり近づかれると、変に意識をしてしまうからほどほどに頼むよ」


 二人は軽く起き上がり俺の表情を見て、次にお互いに目を合わせると、不敵な笑みを浮かべて上に乗って来た。


「いたずらで起こしてあげる!」

「神崎姉妹の目覚ましでございます」

「だーー! 二人とも離れろーー!!」


 ゆっくりとした朝なんて期待したのが馬鹿だった。

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