第22話 はじめての遊園地 4
帰りの車の中、後部座席では奏、玲子ちゃん、湊が寝ている。
俺の隣に座っている刹那はさっき起きたばっかりだ。
空にはもう星が瞬いている。
「お兄ちゃん、玲子の事情聞いた?」
「家の事か」
「うん。あれってどうすればいいのかな」
刹那なりに玲子ちゃんのことを考えていたようだ。
友達というのもあるだろうが、放っておけないというのはやはりどこか似ているのかもしれない。
「解決してあげたい。だけど、俺に何ができるか」
「私も同じ」
「……少し、話を聞いてくる」
「誰に?」
「芳香さんに」
「探偵のお姉さんだよね。頼りになるの?」
「俺よりも大人だからな。何か答えに近づくきっかけをくれるかもしれない」
きっと答えを知っていてもあの人は教えてくれないだろう。
いつだってそうだ。俺自身が答えを見つけるように誘導する。
でも、何かきっかけになる。そんな気がするのだ。
「はぁ~~」
「どうした、そんな深いため息して」
「お兄ちゃんって案外人気者なんだと思ってさ」
「どういう意味だよ」
「だって、小さいころは私とずっと一緒にいたのに。いつのまにか奏たちと仲良くなってさ。それに、玲子はお兄ちゃんのこと気に入ってるし。あと、同級生の奈々さんだっけ。あの人も結構お兄ちゃんを信頼してたから」
「奏たちとは古い仲だし、玲子ちゃんはきっとよりどころがほしかったんだろ。奈々はたまたま立場が似てただけさ」
「でも、ちょっとやきもち焼いちゃうよ」
「なんだ、甘えたくなったのか?」
「……うん」
「おいおい、ここはそんなことないっていうところだろう」
「だって本当だし……」
一人暮らしを始める前は刹那が俺に冷たい態度をとっていたからそこまで会話はなかった。こっちに戻って来てからもほとんどは奏たちといる時間が多い。俺の中で刹那は奏たちよりも落ち着いてて、ドジなところもあるがそれでも二人といてくれると安心できる。
でも、考えてみれば刹那もまだ子どもだ。まだ甘えたい気持ちが残っていてもおかしくはない。人は見た目や行動で相手を判断してしまうが、成長している中で必死に大人になろうとしている刹那の心に、子ども心があるってのは当然なんだ。
いずれ、そういう気持ちを抑えて責任を持ち、成長をしていくのだ。
気持ちを抑え込んだまま大人になれば、それはいずれ大きな反動として返ってくる。
「なら、今度二人で遊ぶか」
「え、いいの? お仕事とか奏たちのことで忙しくない?」
「妹がそんなことを気にするな。兄がいいって言ってんだから素直に甘えなさいな」
「やっぱりお兄ちゃんは優しいね。もう少し、兄離れはあとにするから」
「それを俺の前で言うなって。俺だっていまだにこの落ち着ける場所から離れられないんだから」
遊園地の帰路は静かだった。綺麗な景色が見えるわけでもなく、暗い道をライトをつけて走るだけ。ようやく街の明かりが見えてくるとなんだかホッとした気持ちになる。
「お兄ちゃん、今日はありがとう。それと、玲子のこともお願い。私だけじゃ抱えきれないから」
「手助けしたいって気持ちはあるんだろ」
「当然。だって、大事な友達なんだから」
かつては引っ込み思案で俺のひっついていた刹那が、今では友達と一緒に遊び、自分なりにいろいろと考え、大事な友達の問題をどうにかしてあげたいと考えている。
まだまだ子どもなのに、成長したと素直に感じれるほど刹那は見違えていた。
「あ、今日は神崎家に泊まろうかな~」
「また俺の上に落ちて来るなよ。あのまま寝られたら寝返り打てないんだぞ」
「だったら隣で。兄妹だからいいでしょ」
「この歳じゃいろいろとまずいだろ」
「甘えてもいいって言ったじゃん」
「それとこれとは別だ」
「じゃあ、寝てる間に忍び込むから」
「忍び込む対象に伝えたら意味ないだろ」
「宣戦布告? ってやつだよ」
「まったく……」
誰にも悩みや考えることはある。
若くても年を取っていもだ。
その大きさは年齢で変化するのではなく、それぞれの年齢でぶつかる巨大な壁だ。それを直視することのできた一日だった気がする。
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