第20話 はじめての遊園地 2

 玲子ちゃんはどこか儚げで主張があまりないように見えた。

 それは湊たちの良くも悪くも騒々しさと相対的にみた影響なのか、それともそういう風に育ってきたからなのかまだわからない。

 それでも、いまこの瞬間を楽しんでいることは見ているだけでもわかる。

 ただ、どうしても気になってしまうことがある。常に一歩引いて周りを見ているような気がするのだ。


「玲子ちゃんは次乗りたいアトラクションはないのか?」

「えーっと……。あの、宜しければあそこに入ってみたいです」


 玲子ちゃんが指さした方向を見て、三人は驚いた


「も、もしかしてれーちゃんああいうの大丈夫な感じなの?」

「これはこれは……」

「えっと、マジで入るの?」

「だめでしょうか……?」


 申し訳なさそうにしている玲子ちゃんを見て、三人は首を横に振るが、実際のところは入りたくなさそうだった。なにせ玲子ちゃんが選んだのはお化け屋敷なのだから。


「あっ、ゆーくんも一緒に来てよ!」

「奏、何かドキドキなトラブルを想像しましたね」

「そ、そういうんじゃないよっ! ま、まぁそうなったら嬉しいけど……。って何を言わせるの!」

「心の声が駄々洩れ。可愛いですね」

「私的にもお兄ちゃんいたほうが嬉しいなぁ……なんて」

「別にいいけど、俺ああいうの怖くないぞ。だから、四人で行ったほうが……」


 と、言っている最中に奏たちは俺の服を掴みこっちを見ていた。その瞳から伝わるメッセージはニュータイプじゃなくてもわかるほどものすごく強く「来い!」と訴えかけている。

 三人の真似をして玲子ちゃんまで俺の服を掴んだ。


「お兄さんも一緒にいきましょ」

「わかったよ」


 ここのお化け屋敷は大きいものではないが仕掛けが多彩で結構評判らしい。

 

「……あのさ、これじゃあ動けないんだが」

 

 奏と湊が背中にぴったりとくっついており、前には刹那がくっついている。


「だ、だってこういうの苦手なんだもん……」

「女性は三歩後ろを歩くと言いますから」

「お、お兄ちゃん離れないでね」

「まぁ、こうなるだろうとは思ったけど」


 行きたいと言った張本人というのもあるが、玲子ちゃんは楽しそうに進んでいった。仕掛けに対し驚きはするものの三人に比べ雰囲気に恐怖している感じはあまりない。だが、急に俺のほうにやってきてくっついてきた。


「どうした、怖くなったか?」

「いえ、でもみなさんがこうしているので楽しそうだなと思いまして」

「いよいよこれじゃあ動けないぞ。……わかった。奏と刹那は俺と手を繋げ」

「おい、私はどうするんですか」

「湊はテキトーなところ掴んでてくれ」

「おい、扱いが悪いです。なら、こうしてあげます」


 その見た目から想像できない跳躍力で俺の背中に飛び乗り、まるで木に止まる蝉のように俺に張り付いた。


「く……首が閉まるって!」

「おっと失礼。では、背中にくっついておきます」

「あー! 湊ずるい!」

「なんだこの状態……」

「では、私はお兄さんのシャツを掴みますね」

「いやいや、別に繋がる遊びをしているわけじゃないからな。むしろ離れている方がありがたいんだよ」

「みなさんもこうしてますから。何より楽しそうです」

「……そ、そうか」


 玲子ちゃんの純粋な笑顔で言われるとどうも断りづらい。

 結局、この状態でお化け屋敷を進むことになった。

 仕掛けもあるが人間が脅かしてくることもある。はっきりと表情は見えないが脅かす方々も俺の状態を見て内心を驚いていることだろう。

 今の俺の状態はスーパーロボットがはちゃめちゃな合体を失敗させような姿だ。

 なのにしっかり驚かせてくれるお化け役の人たちのプロ意識に感謝する。

   

 玲子ちゃんは三人に比べ怖がっていないが、お化け屋敷もそろそろ終わろうとした時、井戸から出てきたオーソドックスな女性の幽霊を見た瞬間、声をも出さず驚き正面から俺にだきつき体を震わせていた。


「うおっ! 頭がみぞおちに入った……」

「れーちゃん大丈夫!?」

「あれは……怖いです……。早く行きましょう……」


 少しだけその怖がり方が異様に思えた。

 確かに驚く場面でもあるし風貌はとても怖くメイクされている。スタッフの演技も凄まじいもので雰囲気を相まって恐怖するのは仕方ない。だが、ほかのところにもっと怖い瞬間はあった。なぜ、ここなのか。


 無事に外に出るまで玲子ちゃんは周りを見ずにずっと俺にくっついたまま離れなかった。


「はぁ~疲れよ~」

「お化け屋敷なんて入るものではないですね……」

「お兄ちゃんいなかったら絶対無理!」


 三人はようやく俺から離れてホッと一息ついていたが、玲子ちゃんはいまだに俺にくっついている。


「終わったよ」

「は、はい……」

「あの幽霊そんなに怖かったか?」

「……怖いこと思い出しちゃって。あ、あの、あとちょっとだけこのままで」


 何かただの恐怖でない。そんな気がしてならない。

 

「ああ。気分が落ち着いたみんなでご飯を食べよう。それに楽しいアトラクションに行こう。まだまだ時間はあるからな」

「はい……」


 おそらく、予想が当たっていれば俺が介入できるような問題ではない。

 だけど、このまま見過ごすのも気が引ける。

 せめて、今日はこの子に全力で楽しんでもらおう。

 


 

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