第19話 はじめての遊園地 1

 ゴールデンウイーク、それはなぜか存在するだいたい一週間程度の五月にある休みの期間だ。誰もが学校や会社にようやく馴染めたところで発生するこの休みは、五月病の原因の一つではないかとされている。


 だが、奏や湊を見ているとこの二人には縁がない話だと思えてしまう。

 そして、なぜか俺は今。


「ゆーくん、今日はありがとね!」

「私の説得のおかげですね」

「あの、今日はお願いします」

「お兄ちゃんごめんね。お母さんが暇なら足になってもらってって言うから」


 俺は今、奏と湊と刹那と、三人の共通の友達である玲子ちゃんを乗せて車を走らせている。玲子ちゃんは金髪の長い髪が特徴的で、イギリス人と日本人のハーフだ。まるでお人形さんみたいなクリッとした目がバックミラー越しに見える。

 車はもちろん神崎家の物だ。後ろには奏と湊が玲子ちゃんを挟む形で座っており、助手席には刹那が座っている。


「まぁ、別にいいんだけど」


 いや、あまり良くはない。結局四月はほとんど稼がずに終わってしまった。

 新たな生活に慣れるためと言えば多少の言い訳にもなるが、さすがにそれは自分を甘やかしすぎた。前の家の家賃程度しか稼げてないんだ。五月はちゃんと仕事しないと。

 

 というか、芳香さんもなんだかんだ仕事を振ってこないんだからな。

 連絡しても全然でないし、事務所にいっても鍵かかってるし、一体何をしたんだろうか。


「あ、お兄ちゃんそこ右だよ」

「りょーかい」


 まぁ、ちょいと心配でもあったし御守り係として見ていた方がいいかもしれないな。


 向かった先は遊園地だ。

 さすがにゴールデンウイークだから人はめちゃくちゃ多い。

 おそらくどのアトラクションそれなりに並ぶことだろう。

 受付を済ませ園内に入ると、奏たちよりも玲子ちゃんが一番目を輝かせていた。


「す、すごい……!」

「玲子ちゃんは遊園地初めてなのか?」

「は、はい。お母さんたちが厳しくて、こういったところに連れてきてもらったことないんです」

「そうなのか。今日は思う存分みんなと楽しみなよ」

「はいっ!」


 なんかこう昔の刹那を思い出すような純粋な雰囲気。

 懐かしく感じるなぁ。


「ゆーくん何考えてるんだろう」

「過去に浸っている顔ですね~」

「なんとなく考えてることわかる気がする」


 四人が遊んでいる間は俺は特別やることがない。

 別にアトラクションに乗りたいとも思えないし、とりあえずカメラはもってきたが人だらけで風景の撮影するにしても他人が多く写り込んでしまう。


「ねぇねぇ、ゆーくんも一緒にあれ乗ろ!」


 奏が指さしたのはメリーゴーランドだった。


「馬車に一緒に乗ってよ」

「奏、抜け駆けは許しません。ですよね、刹那」

「なんで私まで。でも、どうせならみんなで乗る方が楽しいし、じゃんけんで場所決めようか。玲子ちゃんもほら」

「あ、はい!」


 なぜか俺だけは馬車に乗るのが決まっており四人でじゃんけんを始めた。

 その結果、馬車に乗るのは俺と玲子ちゃんになったのだ。

 二人で並んで座るが今日初めて会った女子高生と隣に座るってのはどうも変な気がする。


「ごめんな。いまからでも奏たちと交代するよ」

「大丈夫ですよ。刹那ちゃんのお兄さんともお話してみたかったんです」

「俺と?」


 奏たちは馬車の前の馬に一人ずつ座っている。

 三人よりも後ろで、メリーゴーランドの音楽が案外大きく流れていたために俺たちの会話は前には聞こえなかった。


「刹那ちゃんから話を聞いてたんです。素敵なお兄さんだって」

「あいつが俺のことを? なんだか恥ずかしいな。変なこと言ってなかったか?」

「聞く話は全部お兄さんのいいところばかりでしたよ。面倒見がよくて、優しくて、風邪の時にずっと側にいてくれたって。刹那ちゃんはお兄さんのことが大好きな様子でした」


 刹那はほかの人がいるとしっかりと振舞おうとする。実際周りよりしっかりしてるから俺は刹那が大人になったと思っていた。でも、たまに二人で会うと結構甘えてくるところはある。

 以前、二人でファミレスに行ったことがある。その時はスパゲッティのソースを口につけていて、それに気づいたのにわざわざ俺に拭かせた。そういうスキンシップな好きなところはある。

 

 でも、人に言うってのは今まで聞いたことなかった。


「私、一人なので兄とか姉とかにすごく憧れがあって、刹那ちゃんの話を聞くたびに一度お会いして見たいなって」

「普通の男だよ。でも、悪い評価じゃないならよかった」

「お話通り素敵な人です」


 初対面の相手にここまで良い印象を抱かれたのは生まれて初めだ。

 自分でもわかっているが、俺自身そこまで外交的な人間じゃない。

 だから友達と言える人はほとんどいないし、あまり遊びに行くこともなかった。

 あれだな、口コミというのは結構馬鹿にならないものだ。


 メリーゴーランドもそろそろ終わろうとした時、咄嗟にカメラを取り出して奏たちを撮ろうと思った。今が周りがあまり写らないからチャンスだ。


「カメラが趣味なのですか?」

「できればこれで食っていきたいと思ってるよ。今日はみんなの思い出を撮ってあげる。半分は俺の自己満足だけどな」


 湊は前の馬に乗りスマホのフラッシュを刹那に浴びせ、刹那はそれを嫌がり、奏はそれを見て笑っていた。青春って感じの一枚だ。


「あ、玲子ちゃんも一枚いいかな」

「えっ、あ、はい」


 ただ座っているだけに様になっている一枚が撮れた。

 今日はいろんな写真が撮れるかもしれない。

 


 

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