第13話 ドキドキお料理
それは唐突だった。
「今日の私たちはドキドキ料理部です。画面の向こうのみなさんもこんにちわ」
「私たちがゆーくんのためにご飯作ってあげるねっ」
「なんで私まで……」
奏たちと刹那が急に俺へ料理を作ると言い始めた。
「ゆーくんはそこでゆっくりしててね」
「男子禁制のキッチンです」
「普段二人のために料理作ってるんでしょ。私が見とくから安心してよ」
「ま、まぁそういうことなら」
刹那が来てくれたのはありがたい。
正直二人だと何かやらかすんじゃないかと思ってしまう。
皿を割るだとか失敗するとかならまだましだが、怪我をしてしまう可能性もあるからな。
俺はソファに座ってテレビで映画を見ながら気長に待つことにした。
「あっ、デザートのメロンは後で私が切りたい!」
「よろしい、ならば戦争だ。刹那もそう思うでしょう」
「早とちり過ぎだって。というか私を巻き込まないでよ」
「だって……ほら」
姿を見なくてもわかる。どうせ湊は刹那をじーっと見ているはずだ。
「ほほう、奏よりも先に私と争いたいみたいだね!」
本当に大丈夫なのだろうか……。
別に自分の部屋に戻っていいのだが、刹那がいるとはいえ心配してしまう。
この前一緒にポトフを作った時のことを考えれば、奏や湊がやらかしてもなんとかしてくれるとは思うが、湊の行動は俺にだって予測はできない。ご両親でさえも予測できるのか怪しい。
「ねぇねぇ、もうパスタ入れていいかな?」
「うん。って、お湯が全然足りてない! これじゃあくっついちゃうよ」
「刹那、隠し味にこれを入れてみませんか」
「なんでデスソースなんかもってるの!?」
「この前ドンキで買いました」
「絶対入れちゃだめだからねっ! 私もお兄ちゃんも辛いの苦手なんだから」
「では、ロシアンルーレットということで」
「五秒あげるからそれをどけて」
「なんというステイサム。仕方ないですね」
やっぱり不安だ……。
そんな時、電話がかかって来た。相手は薫だ。
リビングから廊下へ出て電話に出た。
「あ、優斗くん。この前の話なんですけど」
すでに依頼内容はアプリ上で送られており、内容は以前使った学校での撮影で、人数は二人。三時間程度の撮影になる予定だ。
「友達が来られなくなって、もしかしたら中止になるかも」
「何かあったのか?」
「友達のお母さんが交通事故にあっちゃったみたいで、怪我自体はそこまでひどいわけじゃないんだけど、入院することになったみたいでその間長時間家から離れられないみたいで」
「大変だな」
「もう一人探してみますけど中止になったらごめんなさい」
ふと、考えが浮かんだ。
「もう一人ってのはどんな人がいいとかあるのか? コスプレってことはやっぱ体型とか大事だろ」
「コスプレは好きでやるならなんでもいいと思いますけど、体型があってるほうがいいのは確かです。今回のは子どもっぽい感じの人と大人っぽい感じの人で、私が子どもっぽい方をやるんです」
「……もしかしたらこっちで用意できるかもしれない」
「え、ほんとですか!? あ、でもコスプレですよ? そんな簡単に引き受けてくれる人なんて」
「明日説得してみる」
「ありがとうございます!」
やってくれるかどうか。たぶん断られるだろうがそれでも少し本気で考えてもらおう。何かの刺激になるかもしれない。
電話を終えて部屋に戻ると、何や焦げ臭いがしていた。
「奏それ焦げてるよ! 湊はなんでキッチンでサングラスかけてるの!」
「あわわわ! 火を弱めなきゃ!」
「慌てなくていいからね」
「そこにまな板、そこにメロン、私と奏で神崎姉妹かんせーい」
「ファンタスティックマジッククッキングしないで!」
「自分で言ったのにダメージを受け過ぎました……。刹那は大丈夫なんですか」
「誰がまな板じゃー!」
心配で不安で何をやらかすかわからないが、それでも三人が楽しそうなのはとても絵になる。俺は急いで部屋に戻りカメラを取ってリビングに戻った。そしてシャッターを切る。
フライパンから出る黒い煙見て残念そうにしている奏、サングラスをかけてなぜかゴボウをもって踊る湊、めちゃくちゃな状態からなんとか挽回しようとする刹那。
カオスという表現がとてもよく似合う。
でもこのカオスはずっと見ていた。
それほど見ている方まで楽しくなる光景だった。
それから三十分後。
へとへとの刹那がソファに座っている俺に後ろからもたれかかってきた。
「お兄ちゃん疲れた~」
「お察しします」
「でも、なんとか料理できたよ」
刹那は俺の目を隠しそのままテーブルのほうへ来るように言った。
しかし、俺が立った瞬間刹那の目隠しは外れなぜか俺の腰に抱き着いていた。
「目隠しはいいのか?」
「身長差があって届かなかったんだよ! 自分で目を瞑ってこっちに来て」
刹那に手を引かれ、椅子に座り目を開けると、そこにはサラダとスープ、オリジナル味付けをした和風パスタができあがっていた。
「すごいな。あの惨劇からここまで挽回したのか。さすが俺の妹だ」
「あれは嫌な事件だったよ……」
「ゆーくんこれ見て!」
奏はメロンを半分に切った物をもってきた。中にはメロンやイチゴやパイナップルやブルーベリーのフルーツポンチが出来上がっていた。
「デザートってこれのことか。てっきり切るだけかと思ってたよ」
「さすがにそれだけじゃ味気ないかなと思ってせっちゃんに教えてもらったんだぁ」
すると、湊はめかぶのカップを四つ持ってきて机に並べた。
「ワンパック、ツーパック、スリーパック、フォーパック。陽気な容器に入れてあげましょう」
「今日の湊はいつも以上にフリーワールドだな……」
「これはさておき、私が作ったのはスープです」
奏と湊がいながらも料理の完成度はとても高く、味もしっかりしていて文句のつけどころがない。
「みんなよくがんばったな。ありがとう、とってもおいしいよ」
「やったー! これでゆーくんに料理作ってあげられるよ」
「次はデスなやつをどこかに入れておきます」
「まだあきらめてなかったの!?」
いつかちゃんと二人に料理を教えてあげていいかもしれない。
だが、その時は刹那も呼ぼう。
さすがに俺一人じゃ疲労が半端ないからな。
唐突に始まった三人の料理は、心配を裏切る最高の結果となった。
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