第11話 踊るように舞うように 2

 何度も、何度も、何度も。

 俺はシャッター切った。

 それは本当にごく自然に、ピアニストがショパンの革命のエチュード弾くようになめらかで力強く。力むことなくまるであたかもそれが当然のように。


 不思議な感覚だった。

 被写体になっているのは見慣れた幼馴染の姿なのに、奏のことを知る二人の指示が奏自身を躍らせ、俺の指を躍動させる。


 もう何枚の写真を撮っただろうか。

 奏に疲れの色が見え始めのに、その表情すらもどこか愛おしく、ファインダー越しでは幻想的に映る。


「ちょ、ちょっと休憩していいかな?」

「あ、ああ。悪いな、いろいろさせちゃって」

「ううん。結構楽しかったよ」

「……奏はモデルの才能があるのかもな」

「ええ! そ、そうかなぁ~。でも、なれたらいいなって思う時はあるなぁ」

「では、カメラマンは優斗で私は奏のプロデューサー。刹那は優斗のアシスタントといったところですね」

「なんか私だけ立場下なんだけど!」


 二人の指示があったとはいえ、奏もかなり自然にポーズをとることができたのは確かだ。勢いで言ったものの案外本当に将来モデルになっていてもおかしくはない。もし、そうなった時、俺が撮る機会があればそれは光栄なことだが、まあそれはちょっとした期待だけでとどめておこう。

 

 その時、スマホに電話がかかった。


「お兄ちゃん、電話だよ。アプリからだね」

「前に仕事した人だ。ちょっと出てくる」


 三人がワイワイと話している中、俺は部屋の外に出て電話に出た。


「もしもし」

「あ、久しぶりです。私のこと覚えてますか?」


 可愛らしい女性の声の主は、高校の同級生だった芦田薫。今は大学に行きながら趣味でコスプレをしている。


 以前、仕事を依頼されたこともある。その時は使われなくなった学校で、薫がアニメキャラの制服を着て撮影するというものだった。


「ああ、覚えてるよ」

「よかった~。あの、また近いうちに撮影をしてほしくて。予定大丈夫ですか?」

「悲しいことに先約はいないからいつでも」

「じゃあ、再来週の日曜お願いします」


 久しぶりの撮影の依頼だ。

 撮影したいという気持ちは常にあったが、同時にどこか不安もあった。今頼まれて自分にしっかりこなせるだろうか。相手の期待に応えられるだろうかと。


 でも、奏を撮ってみてわかった。感覚は鈍ってないしむしろ撮りたいう気持ちがずっと燻っていたんだ。


 電話を切り部屋に戻ると、三人はカメラの小さな画面を一緒に見ていた。


「中々の写真ですね」

「奏ちゃんモデルみたい」

「いつもよりも写真写りいいかも。ゆーくんのおかげかな」

「俺にも見せてくれよ」


 保存された写真を見てみると、そこには自由にポーズをとりつつも、ぎこちなさはなく、いろんな表情の細かい変かを見せてくれる奏の姿があった。


「可愛いな」


 つい、言葉が漏れると、奏は恥ずかしそうにして顔を赤らめた。


「そ、そんなはっきり言われると恥ずかしいよぉ」

「奏撃沈ですね」

「お兄ちゃん、意図せずそういうこと言うからなぁ」

「可愛いんだから可愛いと言って何が悪いんだよ」

「もう! 今日は可愛い禁止! 私燃えちゃうから!」


 その後、奏の撮影は終わったがなぜか三人は俺の部屋に入り浸り、まるで自分の部屋のようにくつろいでた。


 そんな姿を密かに一枚撮ったのだが、これがまた良い写真だ。


 仕事をすんなり受けようと思えたのは、この三人のおかげだな。 

 



 

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