第7話 奏とおでかけ 2
放送で呼び出す方が早いのかもしれないと思い始めた時にちょうど放送が流れた。それは、奏が俺を呼んでいることを伝えるものだ。一階のインフォーメーションセンターに向かってみると奏がまっていた。
「奏! いったいどこに行ってたんだよ」
「ご、ごめんなさい。友達に会っちゃって、見てほしいものがあるからって少しだけ離れてたらこうなっちゃって……」
奏は申し訳なさそうな表情で頭を下げた。
こういう時、大人ならどういう対応をするべきか。俺自身の感情ではなく、大人としての行動をしようと思ったが、強く叱るのは俺にはできない。そんな自信がないんだ。
風来坊のようにきまぐれな感じで、熱い思いをもって過ごしているわけでもない。熱心に目標に向かっているわけでもない。そんな俺が今言えるのは、これくらいだ。
「奏になにもなくてよかったよ。もう勝手に離れるなよ」
「うん。――こうしてれば離れないで済むよねっ」
そういうと奏は俺の手を握った。
冷え性の俺にとって奏の手のぬくもりは心地いいとさえ思えた。
まるで周りからすれば兄妹のように映るのだろうか。
刹那に見られたら何か言われそうだが、まぁこんなところでばったり会うなんてことは……。
「お、お兄ちゃん!? なんで奏ちゃんと手を繋いでるの。……もしかして!」
「い、いやまで! 刹那これは違うんだ!」
「何が違うの! だって、しっかり手を繋いでるじゃん!」
「だから、経緯があるんだって。奏、刹那に説明してやってくれ」
「私と手つなぎたかったんだよね」
「おいーー!! なんでそっち側なんだよ!!」
「――ふむふむ、優斗も一肌が恋しかったということですか」
「違うって! てか、なんで湊もいるんだよ!」
偶然遭遇した刹那となぜかそこにいた湊によって状況はさらに悪化したが、なんとか説明を聞いてもらい事無きを得た。
「もう本当にびっくりした~。まさか奏ちゃんとお兄ちゃんが付き合ってるのかもって」
「さすがにこの歳で女子高生と付き合ったらいろいろとまずいだろ。母さんになんていわれるか」
「あ、さっき写真撮って送っちゃった……」
「え……」
すると、スマホに電話がかかって来た。電話に出てみると母さんが動揺しながら一気に話しかけてきた。また誤解を解かなければいけない。
それから数分後、母さんの誤解も解いて刹那とも別れたがまだ湊は残っていた。
「湊は友達と来てるんだろ? 戻らなくていいのか」
「そうですね。そろそろ戻らないと私も放送で呼ばれかねません。ですが、その前に」
湊は俺の左手を握った。右には奏、左には湊。おかげで両手は温かいがこの状況はいったいどうすれいいのか。そんなこと考えていると湊は手を離し俺の目の前に立って見上げながら言った。
「これで満足です。では」
そういうと湊も去っていった。
「いったい湊は何をしたかったんだろうか……」
「たぶん、やきもちだよ」
「えっ?」
「なんでもない。ほら、行こうよ」
「お、おう」
ただのウィンドウショッピングだったのに精神的にはかなり疲れる一日だった。
帰宅し、夕飯を作っているとお茶を取りに来た奏が元気な笑顔で言った。
「また一緒におでかけしようね」
迷子になったり勘違いされたりしたが、奏が楽しかったのは間違いないらしい。
「ああ、また行こうな」
「――ならばその時は私も行きますよ」
「うおっ! いきなり現れるなよ湊」
「湊も一緒にいこうね!」
「その前に優斗と奏は私と一回ずつ二人でおでかけをしてもらいます」
奏は昼間の湊の行動をやきもちと表現していた。湊は奏が取られる心配でもしたのだろうか。やはり仲良し姉妹だ。
「二人とも近くにいるんなら料理の手伝いをしてくれ」
「おでかけしてくれたしお手伝いがんばるよ!」
「私は何もしてくれてないですが、仕方なくお力を貸しましょう」
「そんなこと言ってると野菜多めにするからな」
「なん……だと……。この私をベジタリアンにする気ですか。これもまた陰謀……。草食動物は美味しいと言いますからね」
「変なこと言ってないで二人はサラダの野菜を切ってくれ」
「「はーい」」
一人暮らしじゃ中々味わえない刺激的な一日だった。
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