第3話 カメラマンをしてます

 神崎家で向かえる始めての朝。まあ、別に何か違いがあるわけでもない。むしろ、ベッドは俺のものだからめちゃくちゃぐっすり眠れた。


 まだ時刻は六時半。今のうちに二人の朝飯を作ろうと思い、先に顔を洗って着替えて、何度かあくびをしつつキッチンに向かった。


 朝のメニューは目玉焼き、ウインナー、みそ汁、サラダ。タイマーをかけておいた米が炊き上がり、早速準備を始める。


 一人暮らしならこんなことしなくてよかったが、一応料理ができると何かと便利だ。一人暮らしでは管理してくれる人がいないからつい、簡単な物ばかり食べたりしちゃう。でも、体調を崩した時の孤独感というのは結構辛いものだ。


 以前に、一度風邪をひいて一人じゃ何もできないのを痛感してから、こうやって料理を作るようになったけど、まさか自分以外のために作ることになるとは想像もしてなかった。


「ゆーくんおはよー……」


 ふわふわとした声でまだ眠たそうな奏がやってきた。パジャマが着崩れていてなんとも視線のやり場に困る。ただ、こういうことは昔からだ。二人とも俺に対して警戒心がなさすぎるんだ。


 信頼されていると考えれば決して悪い気はしないし、ツンツンされてもそれはそれで困る。だが、一応もう女子高生なのだから注意するべきだろうか。いや、家だから油断してるだけで外ならきっと……。

 違うな。湊に関しては外でもマイペースだ。


「おはよう、奏。朝早いんだな」

「う~~ん。いつもはもっと寝てるけどなんだか目が覚めちゃって。それに、いい匂いがしたから」

「まだ眠たそうだぞ。階段の上り下りは気を付けろ」

「まるでゆーくんお父さんみたいだね」

「二十歳で父親にはなりたくないな。何か飲むか? 確かココアとかあったはず」

「じゃあ、お願いしようかな」


 俺も昨日買っておいたインスタントコーヒーを飲むことにした。

 一人暮らししていたマンションは線路が近かったから、朝から電車の音が響いていたけど、ここは住宅街ということもあって朝はとても静かだ。


「熱いから気を付けて飲めよ」

「うん。ありがと。そういえば、ゆーくんって今カメラマンしてるんでしょ」

「まぁ、一応な」

「じゃあ、私も撮ってほしいなぁ~なんて」

「なぜ頬を赤らめる」

「え、いや、ほら。ちゃんとしたカメラって撮られることってあまりないから」

「とりあえずこれで」


 スマホを取り出して一枚写真を撮ってやると、奏は慌てて俺の手首を掴んだ。


「わぁぁ!! 今は駄目だって! 髪も整えてないしパジャマだし!」

「でも、日常の一コマって感じで案外よく撮れてるぞ」

 

 写真を見せると奏はまた慌てだした。


「わ、私こんなに服がはだけてたの! もうっ、ゆーくんのエッチ!」


 そういうと二階に上がってしまった。


「なんだあいつ。朝からテンション高いな」

「ファインダー越しの景色は見えても、乙女心までは見えてないというわけですね」


 どこからともなく声が聞こえ、ソファのほうに目をやると湊がにょきっと現れた。すでに制服に着替えており準備万端だ。


「そんなとこにいたのかよ」

「湊は取られる準備もできていますよ。さぁ、存分にどうぞ」


 よくわからんポーズを取り始めた港を止めることはできない。とりあえず二、三枚写真を撮り湊にみせてやると、どこか満足げな表情を浮かべていた。


「ナイスポーズですね」

「全部真顔だけどな」


 一人暮らしの時とは違う騒々しさが神崎家にはあった。

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