第40話

溶けるような暑さ、とはこのことを言うのだろう。


とある田舎の街でお金も身寄りもない、足腰が弱って外出がてできない一人暮らしの老人が熱中症で亡くなった。

正式に言うと、亡くなったのが発見された。


いわゆる、孤独死だ。


話を聞いてくれる人、要望を受け入れてくれる人しか受け入れず、気に食わない人は怒鳴り散らし、何人ものヘルパーや看護師、医師が入れ代わってきた。


最後は近隣の訪問医が誰も、いなくなり、電話で診察、薬も宅配便で送ることになった。


看護師、ヘルパーも誰もいけなくなり、自治体の職員が週に1回ほど、生存確認に行くくらいの人間関係しかなくなっていた。


自治体職員の話だと部屋は、ゴミ屋敷でとにかくタバコ臭かったそうである。


まるで引きこもりのような生活で、人の悪口をネットに書き込むのが趣味で、たくさんの人に共感してもらえる、と自慢することくらいしか、本人のことは分からなかったというか、教えてくれなかったようである。


最後はエアコンが壊れて熱中症となったようであるが、エアコンが壊れたことを相談する人もなく、エアコンを直すお金もなく、その費用を国からの援助を受けることも最後の最後まで見栄から拒否していたそうである。


ネットへの書き込みの影響でいくつもの侮辱罪などの容疑の捜査が行われていた矢先、息を引き取ったようである。


何かあった際の連絡先には前妻の息子を指定していたが、なんとか、その息子と連絡が取れても、遺体の受け取りなど、全て拒否されたのである。


その後、血の繋がった娘の所在もわかったが、受け取りを拒否されたようである。


その連絡を受けた母親の七回忌の年、彼は地元に帰ってきた。


彼の実家があった場所周辺は大型商店街ができた。


もともと地元からあった商店街が再開発として、かなり大きな距離の、大阪の某商店街に匹敵する長さの商店街として生まれ変わった。


商店街のリーダーが彼の親友である。


大型マンションもすぐそばにできている。


彼は知らなかったけど商店街の再開発、大型マンションの誘致は彼のおじさんと親友の両親の協力が何年も何十年も前からあったそうである。


昔からの飲食店、商店はそのまま商店街の仲間入りし、新しいお店もたくさん誘致した。


テレビではワイドショーでモラハラ、パワハラをする人の特徴とされる障害がここ数年、話題になっている。


被害者が加害者にされた事を記したTwitterや小説、漫画や映画が増えてきたため、皆が、する側の障害を知るようになったのも理由だ。


うつ病や繊細な人、と言われる人々の特徴のように一般的な言葉になりつつある。


そういう人からは逃げ出すしかない、とのことをしきりに精神科医が話している。


ハラスメント被害者だけでなく、加害者も医師のカウンセリングが必要なのだ、加害者の報告窓口が必要なのだ、と話している。


彼は新人の時に働いていた病院に再就職することになった。


薬剤師のトップである薬剤部長は彼の父親とされる人が怒鳴り散らした彼の先輩が就任したばかりだった。


彼は安全管理室部長として、先輩に指名され、呼んでもらった。


彼は人が辞めない、ハラスメントがない職場、後輩の成長を妨げない環境を目指すために呼ばれたはずだ。


そして彼は実家があった場所のすぐ近くの駅前のマンションに住むことにした。


彼も、街も、病院も、新しい時代がやってくる。

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