第32話

「最近、薬剤師に対してのクレームが多いから注意するように」


朝のミーティングで上司から報告があった。


電話だけじゃなく、匿名でメールやSNSでクレームを言える時代だ。


一気に拡散し、根も葉もないことが広まっいくのが今の時代だ。


ある意味、監視社会だ。


クレームのことで上司に呼ばれたのは、父親とされる人が職場に来てからしばらく経っていた。


クレームの対象が僕と父親とされる人に怒鳴り散らされた優しい先輩が特に多いが、何かあったのか、ミスを隠してないか、とのことだった。


隠し事はないし、そういうクレームの対象となるようなことはしていない。上司にも伝えた。


季節は、熱くて、苦しい、僕が苦手な夏を迎えていた。


夏を迎え、僕と先輩へのクレームの件数が病院全体で断トツに多く、医療安全部というクレーム処理、医療ミスなどを扱う部に僕と先輩は個別に呼び出しを受けた。


なんでも特定の人がクレームを入れているようで、念の為、発信元の連絡先のメールアドレスも調べて入手しているようだ。


知っている人か、医療安全部から呼び出しを受けて確認をしに行った。


改めて、クレームとされることをしていないか、隠し事をしていないか、も確認された。


実は、僕の病院が昨年建て替えをして、全国に先駆けた新しいシステムを導入したので、そのインタビューを受けた内容がネットニュースになった。


そのネットニュースにも病院に対する誹謗中傷があったそうだ。


僕は秘密厳守の誓約書に記入し、クレームを入れている人のメールアドレスを確認した。


確認する前、小学生の時悪口を言った人や、昔、別れた彼女、外食の際に注文の催促をしたお店など、あらゆることを思い浮かべた。


「メールアドレスはこちらです。印刷はできないので、パソコンの画面で確認を」


画面を見た。多分、凶悪犯罪をおかした人って自分が悪いコトをした感情がないから、こういうときは冷静なんだろうな。


サイコパスってこういうときほど冷静なんだろうな。


僕はこういうことに慣れてないから緊張しているのがバレバレなんだろうな。


いや、待てよ、もしかして、僕が二重人格で、僕が僕にクレームをいれているのかもしれないな。


画面を見た。


「このメールアドレスですか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る