第31話
ゴールデンウイークが終わり、僕は、仕事を休んで学会に行っていた。
僕が目指している、薬剤師の認定資格のテストを受験するために、学会参加と認定施設の研修が必要なのだ。
偶然学会に参加している日に父親とされる人が勤務先の病院に来たようだ。
というか、母親からのメッセージアプリで
【今日、お父さん、勤務先にあなたを訪ねて行ったみたいだよ。子供に会わせない失礼な奴らだって言ってたよ。なんかあったらごめんね】
正直、鳥肌が立つほど嫌だったし、ストーカーみたいな事をするのが恐怖に感じるほどだった
【言わずにごめんね。今、学会で神戸に来ているんだ。いないのは嘘じゃないよ】
【そうなんだ。迷惑かけてごめんなさい】
正直、その連絡を受けたあとの学会の記憶はない。
二泊三日で学会に参加したけど、何も身にならずに帰ってきた。
月曜日、朝、上司に、学会の報告と、父親とされる人が来たことへの謝罪に行った。
「父親とされる人が来たようで申し訳ございませんでした」
「私は丁寧に挨拶されただけだよ。対応してくれたのは私じゃないよ」
いつもお世話になっている優しい先輩が父親とされる人、と話をしてくれたみたいだった。
「先輩、色々とご迷惑をおかけしていたら申し訳ございませんでした」
「まぁ、色々と話をすることになってさ、後で、時間があるときに内容を説明するね。秘密にしておいて、後で君に何かあったら困るからさ」
おそらく、先輩は何かされたのだろう。
時間をかけて説明しなければならない事をさせてしまったのだ。
業務時間が終了し、先輩が、帰る準備をしていてので聞いてみた。
「先輩、父親とされる人と何かあったのですか」
「言うべきか散々悩んだんだけど、君が家を出たようだから言うね。気を悪くしたら申し訳ない」
先輩は白衣のボタンを緩めて、思い出すように上を見ながら話し始めた。
「今くらいの時間かな。18時前くらいに、そこの窓口に男の人の声で、すいません、お世話になっている広治の父親です、って話しながら年配の男性が立っていてんだ。広治いますか、ってね」
「お父さんですか、いつも彼は頑張ってますよ、どうしました?、と僕が言うとね、連絡が取れなくて、会いにきました、顔を見に来たのと、授業参観みたいなものです、っていってたかな。僕が、彼はちょうど今日から学会ですのでいません、と伝えたんだ」
わざわざ来るのも嫌だし、授業参観とか、顔を見に来る、って親子のようなことをするのが面倒くさい。
「息子からは聞いてなくて、ビックリしました。職場では報告連絡相談はしっかりとしていますか?って言われたから、きちんと社会人してますよ、なんて答えたんだ」
「そうですか。帰ってきたら連絡よこすよう、言ってもらえますか、って言ってたよ」
よかった。
大した事なくて。怒鳴り散らしたりしなくてよかった。
「ちょうど部長が目の前を通ってね、挨拶もしていたよ」
「で、自分も帰ろうとして病院を出るとね、病院の前に車が止まっていて、君のお父さんだったよ」
「お前ら薬剤師は人をなんだと思っている。息子も息子ならば先輩も先輩だな。お茶の一杯もよこさない。ろくな職場じゃないな。普通は、だぞ、親が来ていたら、すぐに息子の携帯に連絡して折返しさせるはずだぞ、それもしてないようだ。普通じゃない、俺から言わせれば社会人じゃないね。って怒鳴り散らして帰っていったよ」
やはり怒鳴り散らされていた。
普通じゃないのは父親とされる人、だ。
「先輩、どうもすいませんでした。申し訳ございません。謝ることしかできないです。すいません」
「親子の仲だからね。他人が口出せることじゃないよ。あと、誰にも言ってないから、安心してね。」
ただただ謝り通した。
誰にもわからないところで、優しい先輩を怒鳴り散らす、狂ってる。
父親とされる人は狂っている。
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