第29話

年末の寒さが嘘のように、年が明けたら温かい冬になった。


新しい部屋に住んで2ヶ月が過ぎた。


毎日罵倒に怯えていたからか、嫌味を言われるのが嫌だったからか、そういうのがない、普通の生活が、ここまで楽しいとは、正直ビックリした。


家を出た日、父親とされる人からは


【お前が一人前になったらご飯食べに行ってやるよ】


とメッセージアプリで連絡が来たが、【ありがとございます。がんばります】とだけ返しておいた。


こちらからは関わりたくないので、当然、連絡をしない。


例えば自己肯定感、なんてなかったのだろう。


何かを決めるとき、決断力がついたし、何かやってみよう、と挑戦してみる力がついた。


今までは、実家に帰りたくないから仕事を頑張っていたが、そのおかげで基礎的な力もついた。


不幸中の幸い、とでも言うのか。


研修会や学会への発表、薬剤師の中でも認定がつく資格への勉強も始めた。


思い出したくもないが父親とされる人は何かしらの精神的な疾患を持っていたのではないか、なんて思っていた。


でも、それが何なのか、についてはしっかりと調べずにいた。


それは、何かしらの疾患と知ってしまってからは、その疾患を抱えている人に対し、僕は、偏見を持って接しながら、生きていくと思う。


それは失礼だと思っている。


いや、失礼だろう。


もし、その精神的な疾患に遺伝的な素因があるならば、僕は、血の繋がりのある父親とされる人に近づく可能性があるかもしれない。


知りたくないから逃げてきた。


しかしながら、完全には逃げ出しきれず、何かしらのヒントがあるのではないか、なんて、精神疾患の薬の勉強会には多く参加した。


父親とされる人からされていたことは、いちおう家族としては僕に対しての虐待だろうし、例えば血が繋がってにいないとしたらパワハラだろうし、テレビで、離婚した芸能人の特集をやっていたが、妻に対してはモラハラに値する。


虐待を受けた人は自分の子供にも虐待をしてしまう可能性がある。


そして、僕は、父親とされる人の血が入っているので、そうなる可能性がある。


結婚はしない方がいい。


被害者は減らすべきだ。


結婚しない決心と子供を持たない決意を、固めた僕は、全てを受け止めるため、インターネットや本屋さんで父親とされる人がもつ疾患を知ることにした。


怒鳴り散らす人や、パワハラする人、モラハラする人に関しての本をひたすら調べた。


ただ、知りたい欲に任せて。


知りたい欲に任せて、とある障害である、ということに行き着いた。


その障害を知ったとき、涙が止まらなかった。


過去、父親とされる人から言われて来たことを当てはめていっても、あらゆる病気が違っていた。


最近話題になっている生きるのが辛い方々の障害も疑ったが、違っていた。


自分は特別であると思い込み、特別な待遇を求めてしまうような人、注意を受けたら馬鹿にされている、と思い込み噴き出すように怒り、怒鳴り散らしてしまう障害である。


特別な存在であると思い込み、パワハラ、モラハラをしても許されると思いこんでいる障害なのである。


治療法はなく、カウンセリングなども難しい。


あらゆるインターネットサイトや動画サイトでも、逃げ出す、以外の方法はない、と言われている。


薬剤師でも言葉を人から1回だけ聞いたことがある程度の障害である。


その言葉にたどり着き、僕は、曇り空から太陽が出たような、正解にたどり着いたような気がした。


でも、医師から診断を受けているわけではないし、そういう方々は医師へ行かないとされている。


どうしたらいいか、悩み事が増えてしまった気もした。


たしかし、障害は理解できたので、これからの対策を考えやすくなったのは確かだ。


とりあえず、逃げるように寮に入った僕は、正解だった。


できればお母さんもおじいちゃんもおばあちゃんも逃げてほしい。

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