第26話
とにかく、家にいる時間を少なくするようにした。
仕事もしっかりとこなし、調べ物がある、と残業し、同僚の仕事もできる限り手伝った。
夜勤も自ら出たいと申し出た。
研修会や勉強会も、とにかく参加した。
土日も仕事の研修会、勉強会に行くようにした。
それは北海道旅行が終わってから回数を増やしていき、夏が終わりを迎える頃には、家で朝ごはん以外を食べることは、週1、2回くらいだ。
「最近、頑張っているな」
職場の皆にも褒められるようになった。
「仕事が忙しくて実家に戻れないし、仕事も頑張ろうと思うからしばらく寮に入りたい、と伝えて寮に入ろうと思うのです」
先輩に伝えた。
「周りも褒めているから、大丈夫だと思うよ。ただ、お母さんが心配ないしないかな」
そうだな。
確かに、お母さんが心配するかもな。
お母さんには最後、本当の事を言おう。
そうなるとおじいちゃん、おばあちゃんにはどうしようか。
家に僕がいないと、父親とされる人からメッセージアプリの連絡が増える。
【お前と同じくらいの人間が海外では大統領に立候補してるぞ。そのくせ、お前は仕事も半人前。彼女もいない。】
僕と同じくらいの年齢の成功者とを比較し、とにかくけなすことが増えてきた。
【この前、中学校卒業してないけど、社会的に成功している社長の特集をしていた。録画していたから見るように】
こういうのを見ないと怒鳴り散らされるから、しょうがなく見る。
【自分で新しいことを発見し、寝る間を惜しみ、人から信頼を集めてきたのがすごいと思います。失敗しても信頼している人に助けられてきてから、今があると思います】
いつも差し障りのない文章を送り誤魔化しておく。
【信頼は大事だ。信頼されるための行動は……】
仁義とか、信頼とか、そういうのが大好きなようである。
以前、自分からその話をしてきたことがある。
「俺がなぜ仁義や信頼を大切にするかわかるか。俺は昔暴走族の総長をやっていて、将来は組に入ろうと思っていた。でも、自分には組でのし上がっていく度胸も力もないと知って、自分で組を作ろうと努力した。でも、仲間が集められなかった。金も無くて、とにかく金を集めたんだが、持ち逃げもされたこともある。仲間に反旗を翻されたんだろう」
二人っきりのときに話していた。
映画やテレビで見るような、男らしさや、男として憧れるようなオーラとかカリスマ性とか、正直、父親とされる人からは感じられない。
今、僕がこれだけ歳が離れていてもそう思うのだから、当時はもっとそうだったのかもしれない。
そんなこと、本人には言わないけど。
「お前のためを思って言っているんだ。将来、カッコ悪い人間になりたくないだろう」
自分の将来が、この父親とされる人、になるのならば、長生きほど怖いものはない。
父親とされる人は、とにかく、お前のためを思って、との発言が多い。
そんな中、家族で揃って久しぶりに夕食を食べる機会があった。
僕が避けているから揃わないのは当然なんだけど。
「俺と同じくらいの年齢の薬剤師がこの前、海外で紛争に巻き込まれ死んだ話の特集をしていたぞ。薬剤師がいない国で医師と協力して患者のために働いていたいたぞ。薬剤師の普及にもつとめていたみたいだ。同じ独身の薬剤師の男だったら、ああならないとな。俺も薬剤師だったらああいう生き方をするだろうな。それに比べお前と来たら、しょうもない人生を歩みやがって。お前には人のために死ねる覚悟がないから家族も作れないだろうな。」
人のために何かをするのは大切だとわかっているが、自分の息子に対して死に対する覚悟を決めろ、と言えることに驚いたのだろう。
お母さんは特集には感銘を受けたのか、涙を流して感動していたけど、さすがに青ざめて、驚いた顔をしていた。
次の日、朝ごはんを二人で食べていて気がついた。
お母さんとも毎日顔を合わせているけど、じっくりと顔を見て会話をする時間も少なくなっていた。
「お母さん、少し痩せてきたんじゃない?ちゃんと食べている?」
「大丈夫よ。近くと大学病院でも定期的に血圧の薬もらいに定期的に受診してるんだから」
「そういえば、なんで大学病院に転院したの」
「先生が今後、どっかのタイミングで大学病院に戻るんだって言ってたから、早めにお願いしちゃった」
そうだ。定期的に大きな病院に行って、血圧の薬を飲んでいるのだから血液検査もするだろう。
大学病院から派遣で来ていた医者がいずれ戻るから大学病院に移ったんだ。
忘れてた。
だったら尚更、安心だ。
「あっ、そうそう、どっかのタイミングで人間ドック?みたいに細かく検査してもいいかな。一泊入院で検査しておきたいの」
「なんか気になるところあるの?」
「1、2年に一回、細かく検査しておきたいな、ってね」
そうだ。そういえば、僕が薬剤師になる前くらいにも一泊入院で検査してたな。
長生きしてほしいからな。
検査なら喜んで勧めるよ。
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