第24話

北海道の一人旅はかなり予定をのんびりするように組んだ。


色々と頭をスッキリさせたい思いが強かったのと考えたいことかあった。


札幌と小樽の海の幸は最高だったし、札幌からバスに乗って行った温泉は気持ちよかった。


男の一人旅だ。


夜の街にも当然繰り出す。


すべてが最高だった。


ただ、スマートフォンを開けるたびに父親とされる人からのメッセージアプリが届いていた。


内容としては【お前はおかしい】【帰ってきたら話がある】【お前は社会人として失格だ】【普通じゃない】【だからモテない】、などだ。


僕は旅をしながら何となく考えていた事を実行に移すことにした。


僕は家を出ようと思う。


職場の病院には寮というか、貸し切りのマンションがある。


男性寮、女性寮みたいな形で、研修医や地方から就職した人が主に利用するものだ。


新人から3年目までが利用可能なようで、そこに住みたいと思っている。


一人旅をする前に、その寮は毎年埋まらずに、空きが出るので物置になったり、会議スペースになることがあるとの情報を得た。


家からギリギリ通えるのだが、相談したいと思っているし、無理ならは職場のそばで1人暮らしをしようと思っている。


問題はお母さんと父親とされる人だ。


お母さんは許してくれるだろうが、お母さんを父親とされる人と二人っきりにはさせておけない。


そして、父親とされる人へ、なんて言おうか、が大問題だ。


怒鳴り散らされるのかオチだ。


まずは、仕事が忙しいフリをしたり、勉強会の量を増やし、帰る時間を遅くしよう。


忙しいから寮に入ることにしたら、さすがに嫌味は言わないだろう。


転職しろ、と言われたら、今の職場がいい、と言おう。


実際に今の職場が好きだ。とりあえず、全てがまとまって、話すのみ、になってから言おう。


目標は来年の年明けの1月、もしくは4月だ。


それまで、耐えろ、自分。


北海道旅行から家に帰った時間は昼過ぎだった。


午前中の便の方が安いので、選んだ。


家に帰ってからは、父親とされる人からずっと説教だった、というよりは怒鳴り散らされるだけだった。


「お前は殴る価値もない」


いつも通り父親とされる人はそう言っていた。


やはり、相談もなく旅行に行ったのが気に食わなかったようだ。


僕は家を出る決心を固めているが、その理由が、この人と関わりたくないからだ、と確信した。


翌日出勤したとき、先輩に相談した。


数人いる薬剤部の中で僕が最も信頼している先輩は病院から薬局を経てもう一度病院に勤務している先輩だ。


「確かに、寮は埋まってないだろうね。確か、部長の許可がおりれば、入れると思うよ」


色々と話を聞いたが、まずは部長の許可をもらうことから始まるようだ。


部長に相談した。


「今は通えてるけど、どうしたの?」


「仕事が忙しくなって遅くなってしまうのと、勉強会にたくさん出たいからです」


「仕事か忙しくて帰れないのは、うまく調整するよ。勉強会の行き過ぎで、帰れなくて疲れ切っちゃうのは本末転倒だぞ。寮に入るのは相談に乗るけど、その辺は注意が必要だよ」


部長に伝えた理由だと、確かにそう言われてもしかたない。正直に言おう。


 「もう社会人なので、一人暮らしをしてみたい考えもあります。あと、正直言うと、父親と一緒に住み始めたのですが、折り合いがつかなくて…」


「そうか。私も父親だからわかるけど、親子なんてそんなもんだろうな」


部長にも、子供がいて、仲が良くない、との話は聞いたことがある。


でも、僕の場合は怒鳴り散らされるのが嫌なんだ。


たぶん上司のは世代間で考え方や価値観が合わないくらいのイメージなんだろうけど、僕のは違う。


もし、僕が、幼い子供だったら殴られていてもおかしくないし、虐待になるだろう。


そんなことを考えながら、親子関係について部長の小言を聞いていた。


その話を聞いていた先輩が


「いいことじゃないですか。仕事頑張ろうとしているのだから。応援しましょうよ」


とフォローしてくれたおかげで小言は終わった。


「まあ、頑張ろうとしてるのは確かだからな。総務課に伝えておくよ。自分から総務課に言って寮に入るよう動いてくれ。何かあったら言ってくれ」


「部長、ありがとうございます。」


あとは総務課などに話をして動くだけだ。一歩ずつ、進んでいこう。


「先輩、フォローしていただき、ありがとうこざいました」


昼時、食堂で見かけた先輩にお礼を言った。


「うん。いいよ。無理しないようにね」


「実は、離婚した父親が怒鳴り散らす人で、厄介で、離れたくて、寮を希望しました」


「珍しく、自分から主張してたから、色々とあるんだろうな、とは思ってたよ。」


先輩は社会人になって怒鳴り散らしたり、嫌味を言ったりする人と働いた事があって苦労した話をしてくれた。


「そういうのは当事者しかわからないからさ」 


この先輩の知識の多さ、温厚な人柄、人との距離感の良さ、冷静さの過去にたくさんのつらいことかあるんだろうな。


この会話を機に先輩には仕事面の相談や父親とされる人の愚痴を聞いてもらうようになった。


総務課へ行って、寮は空いているので、いつからでも入居していいことを確認した。


自分としては来年の1月、もしくは3月を予定している。


寮は6畳のフローリングのワンルームで、風呂トイレ別で、家賃は3万円だ。


僕にとっては充分過ぎる環境だ。物事が良いように進んでいく。

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