第23話
病院という仕事の都合上、お盆休みはない。
自分の仕事量と調整しながら、夏休みを取る、という流れだ。
社会人になり、お金を稼ぐようになってから、僕は一人旅が好きになって来た。
好きになって来た、というよりは、何回か行くようになっていた。
父親とされる人と住む前の夏休みは一人旅で大阪や京都、奈良を2泊3日で一人旅した。
1泊2日で行けるような旅先にも何回か行ったが、父親とされる人と住むようになってから、なんとなく、行っていない。
今年の夏休みは九州でも行こうか、北海道でも行こうか、なんて思っている、というか、行きたい。
家から少しでも離れたい、頭をスッキリさせたい。
一人旅が好き、というよりは、そっちの考えの方が明らかに強い。
お母さんにはなんとなく言っていたが、父親とされる人には最後の最後まで言わなかった。
いつも、
「お前のように、一人が好きなやつはおかしい」
と、一人でブラーっと出かけようとする僕やお母さんに一言嫌味を言うし、家族のことをすべて把握しようとするからだ。
この前は僕の貯金通帳を勝手に開けて見ていたことには驚いた。
僕の部屋のドアが開いていたから覗いたら、通帳を父親とされる人が見ていた。
半年くらい印字してないから、現在の額は判らないだろうが、それから通帳はスマートフォンでしか見れないシステムに変更して、紙の通帳は無くした。
それから何回か今まで通帳が入っていた場所を探している跡はあった。
7月の海の日を利用し、連休をとり、北海道に一人旅をすることにした。札幌、小樽をのんびり観光しようと思う。
頭をスッキリさせようと思う。
7月に入る前の夕ご飯のとき、僕は話を切り出した。
「今年の夏休み、一人旅して来ます。今回は北海道をのんびり観光してきます。しばらく一人旅してなかったので、3泊してきます。」
お母さんは笑顔で、
「あら、楽しみね、気をつけてね、」
なんて言ってくれた。
「なんで今まで黙っていた?もうすぐじゃねえか?お前はいつも秘密にしている。旅行は普通は、家族で行くもんだろ。お前は普通じゃねえ」
いきなり、父親とされる人が怒鳴り散らした。
「お前の育て方がわるいからこうなるんだ」
怒りの矛先はお母さんにも向いた。
「一人旅に行くことはいけないことですか?」
「普通は家族や仲間同士行くもんだ。しかもお前は家族にも心を開かない。お前、貯金通帳の隠し場所変えただろ。なぜだ?」
「見ていたのを知っていたからです。スマートフォンでしか見れないように変更しました」
「家族にも貯金通帳見せられないのはおかしいだろ?だから独身なんだ」
父親は散々怒鳴り散らし、玄関から出て行った。
「ごめん。早めに言えば良かった」
僕は母親に謝った。
「ごめんね。偶然、昨日、この会話になって、今年は一人旅で北海道行くみたいよ、と話ししたら、なぜ俺には言わない、なぜ一人で行くって怒ってたのよ。ヘンな意味はない、と説明したのに、こうなるのね。ごめんね」
「これからは気をつけるよ。ホテルとか飛行機も予約したんだけど、中止するよ。気分悪いし。」
「気にせず行ってきていいのよ。」
それから僕は一人旅まで本当に忙しい日もあったり、勉強会で帰るのが遅くなったりしたけど、何日間かは嘘をついて、帰って寝るだけの生活を繰り返した。
お母さんにも嘘をついた。
夜勤と嘘をついて、職場から家までの間のホテルに泊まって翌日帰ったりした。
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