第22話

ゴールデンウイークが過ぎて、5月の終わりにおじさんから車が来た。


型番は少し古いけど、綺麗なクラウンだ。


クラウンが来てから父親とされる人はしばらく上機嫌だった。


今までは自転車で行っていたパチンコも車で出かけていたし、土日は車で買い物や遊びに行こうと僕とお母さんを促した。


また怒鳴り散らすことが嫌だった僕とお母さんは渋々着いていった。


3人で車に乗って出かけるのは始めてだったから新鮮だ。


でも、人間というのは不思議なものだ。


一回でも怒鳴り散らした人というのは、そういう、怒鳴り散らす人、と心のどこかで思いながら会話してしまう。 


 「今のガキどもは元気がない。負けん気もない」


一回怒鳴り散らしてから、若者を馬鹿にする発言をするようになったし、地元の人の悪口をよく言うようになった。


 「肉屋は飲み会に来ないみたいだな。肉屋、評判良くないな。この辺のお店の中で唯一、ずっと黒字経営らしいな。よっぽど口がうまいんだろうな。あと、お前の後輩の家の靴屋の父親も、俺を馬鹿にしたこと言ってやがった。皮や肉を扱う奴は民度が低いって昔は言われてたんだ。何回か参加したが、もう地域の飲み会は参加してやらねぇ。」


僕の悪口の次は地域の悪口だ。この前、肉屋がどうたらこうたら言ってたから、ネットで調べた。


ずっと前は差別があったみたいだが、もう時代は変わっている。


今はそんな時代でもない。


父親とされる人は脳をアップデートできてない人だ。


学習できてない人だ。


「お前は、肉屋の友達や靴屋の後輩が馬鹿にされても文句一つ言わない。ダサいやつだ」


確かにそうかもしれない。


友達が馬鹿にされても後輩が馬鹿にされても、何も言ってない。


僕には勇気がない。


重たい空気のまま、数十分乗り続けた。


そして、以前、父親とされる人が働いていた会社の側を通ったり、以前住んでいた家の周りを通ったりもした。


昔働いていた会社はコネで入社したが、 当時の部下がミスをして左遷になったので退職したようたが、今でも連絡はとっている。


自分を慕っている人がたくさんいる、ような発言は多いし、友達が多いような事をよう言う。


「そもそも、お前は俺が家に来る日、仕事に行っていたな。俺を舐めてるな」


とにかく、馬鹿にされた、舐められた、と言って突っ掛って来ることが多い。


余計なことをいうと面倒だから徐々にこちらからの会話は減っていった。


季節は梅雨を迎えるが、父親とされる人は友達と遊ぶ様子もなく、毎日昼は車に乗って買い物やパチンコ、夜は家でご飯を食べる。


週末は僕を含めた誰かの悪口と自分の自慢をしながら、僕とお母さんを連れてドライブ、の生活を繰り返していた。

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