第20話

「お前さ、車買ってほしいだろう?」


「自分は今の生活パターンではいらないかな、と思ってます。あったら遠出できるので便利だとは思いますが。」


 「必要だろ。今の若い奴はいらないだろうけど、俺たち世代は車を持つことが普通だったからな。アツコに相談するよ」


ゴールデンウイーク前に父親とされる人から話があった。


どうやら車がほしいようである。


自分は自動車免許をとっているが、カーシェアか旅行くらいしか使わないし、正直、維持費が高いと思っている。その話はそこで立ち消えになった。


しかしゴールデンウイークの夜勤中にもメッセージアプリでメッセージがきた。


 「今の若いやつは何かを犠牲にしてまでも大きなものを手に入れようとしないから、小さくまとまると思うんだ。そういうふうになるなよ。だから何者か、になれないんだ」


ハジさんは、とにかく僕をワイルドに仕上げたい雰囲気が伝わってくる。


ハジさんはワイルドというか、ちょいワルな雰囲気が伝わってくる。もし、血が繋がっているとすれば、僕にもそういう血が流れているということだ。


ただ、お母さんは静かだから、お母さん似なのだろう。


「了解しました。では、仕事がんばります」


ゴールデンウイークの一回目の夜勤明けにおじいちゃん、おばあちゃんの家にいつも通り行って、寝ていると、お母さんが来た。おじいちゃん、おばあちゃんの家でお母さんを見るのは初めてだ。


というか、起きたらお母さんと、おじいちゃんとが話をしていたのが聞こえてきた。


もしかして、声で目が覚めたのかも。


「だからね、社用車として買ってほしいの。3人でドライブにも行きたいしさ、だめなの?」


「あいつが買ってくれって言ったんだろ。だったら買わないし、そもそも社用車として買えってのはおかしな話だろう。自分たちの力で買いなさい」


「じゃあ、お金貸してもらえないかな。きちんと返すから。」


「だめだ」


「最悪!もう帰る。」


「会社に行って、みんなにお願いなんてみっともないマネは絶対するな!」


聞こえてきた会話から想像できたが、たぶんハジさんから車がほしいと言われたから来たのだと思う。


実際にお母さんはペーパードライバーだし、今まで車がほしいなんて言わなかった。


でも、なんで会社の社用車をもらおうなんて考えるんだろう。


買うか、リース契約もいいし、カーシェアでもいいしレンタカーでもいい。


どんな考えから来ているのかわからなかった。


玄関の扉が閉まる音が聞こえできた。


「あいつから言われたんだろうな。だから反対だったんだ。結婚している時、アツコ達夫婦のためにって、社用車を使わせていたが、あいつ、あの車で浮気相手のもとに行っていてだろう。孫のためだったらなんでもするけど、アツコのためには、もう力になれない」


ため息混じりの愚痴が聞こえてきた。


今、起きて行っては行けない気がして、しばらく、僕は夜勤明けに枕と毛布を用意しておいてくれる奥の部屋で横になっていた。


しばらくして、おじいちゃん、おばあちゃんにさっきの会話は聞こえてないふりをして挨拶をした。


「おはよう。今日もよく寝たよ。ありがとう。」


「おはよう。いびきかいてたね。疲れてるんだろうな。さっきお母さんが久しぶりに来たけど、コーヒーだけ飲んで帰ったぞ」


「寝ていて気づかなかった。そうなんだね。」


「ゴールデンウイークに2回も夜勤なんて大変だな。でもおじいちゃんは嬉しいぞ。たくさん孫に会えるからな。」


「そうね。毎週夜勤してくれたりいいのに」


「そう言ってくれると嬉しいよ。また次の夜勤も来ていい?」


「もちろんだ」


「じゃあ、また勤務決まったら連絡するね。なんか来るとき買ってこようか?」


「気を使わなくていいよ。元気に来てくれればいいからな」


「わかった。じゃあ、帰るね」


さっきのお母さんとの会話が嘘みたいにおじいちゃん、おばあちゃんは笑顔だった。


また来よう。

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