第19話

薬剤師が病院に勤務すると、病棟を担当することになる。


病棟を担当するということは、入院患者を担当するということだ。


入院患者の状態をカルテでチェックし、医師や看護師や栄養師と相談しながら薬の量や種類を決めていく。


医療従事者になった気がする仕事だと思っている。


入職して数ヶ月で病棟を任せる、というのがこの病院の慣習のようだが、はじめは病棟に行くのが怖かった。


薬に関して知らないことをたくさん聞かれるし、ベテラン看護師の方が薬の知識があったりする。


知らないからこそ、のミスをするし、人に聞かなかったことで起こるミスをたくさんしてきた。


その都度、恥ずかしさや、悔しさもあり、何回も辞めようと思った。


退職願も書いた。勉強したり、勉強会行って知識を身に着けたら変わるかも、もう少し頑張ろう、薬剤師の優しい先輩のために頑張ろう、でも辞めたい、もう一回ミスしたら辞めよう、の繰り返しだった。


入職して一年も経つとだいぶマシ、になってくるというか、なってきた気がする。


仕事中、聞かれたことは翌年違う人に聞かれるから、なんとかなるし、答えられないことは少しずつ減ってきている。


医師に提案した薬がそのまま採用され、実際に患者に投与され、状態が改善されたときは感動すら覚える。


そのおかげで勉強したり、勉強会に行く気持ちが強くなる、の繰り返しである。


朝、医師、看護師と一緒に入院患者の回診をすることがある。


それにも参加して、入院している全患者の容態を医師、看護師と見ているとき、病院に就職して良かったと思う。


「この患者さんの既往歴に自己愛性パーソナリティ障害ってあるのですが、自分、初めて聞きました。」


「あー、怒りやすい人かもね。気をつけないとね。」


「そうなんですね」


看護師とは情報交換みたいに知らないことを補いあえるくらいのコミュニケーションをできるようになってきた。教えてもらったことを家に帰って深掘りしたり、聞かれたことを調べて翌日答えたりしている。


たまに疲れて忘れたりするけど。


ちなみに、その日の、自己愛性パーソナリティ障害、については疲れて調べることを忘れていた。


今年はゴールデンウイークに2回夜勤に入ることになっているが、夜勤も慣れてきたので、仕事の勉強をゆっくりできるいい時間だ。


夜勤明けにおじいちゃん、おばあちゃんの家に寄って、ご飯を食べて夕方家に帰ることも楽しみだったりする。


土日祝日はどうしても、父親とされる人とお母さんと過ごしているし、自分もブラブラしていることがあったりするし、夜勤明けおじいちゃん、おばあちゃんの家に行くのが一番都合がいい。


まぁ、僕はお風呂入って食べて寝る、しか、していないけど。


今年に入って、一緒に住まなくなってからのルーティンだ。


数日前に連絡して、当日病院を出てから、もう一回連絡して行く。


美味しいご飯が待っているし、よく眠れるように、一杯くらい、おじいちゃん、おばあちゃんとお酒を飲むこともある。とっても楽しい時間だ。


「いつでも来てもいいからね。辛くなったらいつでも来なさい。一部屋は何も使ってない部屋があるからね。」


おじいちゃん、おばあちゃんは優しい。


ずっと大好きだ。


おじいちゃん、おばあちゃんは父親とされる人のことは一切触れないから、僕も会話をしないようにしている。


ちなみにお母さんは僕よりおじいちゃん、おばあちゃんと合う頻度は少ないようだ。


僕がひと月に1回から2回だからお母さんはそれより会ってないんだな。


お母さんとおじいちゃん、おばあちゃんの連絡はメッセージアプリでのやり取りが中心で、たまに電話が来るようだ。

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