第12話

年の瀬、我が家は慌ただかった。


来月、5日、おじいちゃん、おばあちゃんは引っ越す。


家から電車で1駅、自転車で15分ほどの距離に引っ越す。


そのためには、あとは荷物をまとめるだけだ。


実の息子であるおじさんの会社の管理物件だから、 色々と安心とは言っていたが、慌ただしい。


僕の仕事も忙しく、皆で食事も一緒に食べることはなかったが、クリスマスくらいは、と僕からお寿司の出前とケーキのプレゼントを兼ねて夕御飯を一緒に食べた。


なんとなく、皆で食べることが今後は無さそうだったので、今回は自分から言い出した。


今年のクリスマスは土曜日だったのでちょうど良かった。


「そういえば、広治、アイツと会ったんだろう?どうだった?」


「自己紹介してくれたよ。ても、どうだったかといっても、会ったの一回だけだし、わからないよ。」


「そうか。まぁ、近くに住んでいるから、いつでも逃げてきてもいいからな。1部屋余っているから。」


「ありがとう」


「アツコ、今後は改まって話せないかもしれないから、話しておくよ。アツコが決めたことだから、もう何も言わないよ。ただ、何かあった場合の予防線というか、逃げ道だけあった方がいいんだ。約束というか、お願いをするよ。この家の名義人は俺のままにしてほしいんだ。何かあった場合の相続人を広治にしておく。ただ、これは絶対に奴だけには秘密にしてほしい。表向きは相続人はアツコだ。ただ、相続人の件は弁護士に遺言みたいな形で書類で渡しておけば、何かあった場合も問題ない。弁護士は会社の顧問弁護士にお願いした。もうひとつ、絶対籍をいれないでくれ。内縁の妻、となってしまうかもしれないが、籍だけはいれないでくれ。つまり、明日、我々が死んだらアツコに残すものは、皆で分けるお金だけになる。ただ、そのお金に関することも、広治に少し渡せるように弁護士に書面で渡しておいた。アツコの事を止められず、広治が苦労してしまう事に対する謝罪だ。ただ、アツコ、お前の事は大好きだ。それ以上に、奴が憎いんだ。それだけは、許してくれ。申し訳ない。」


今、とんでもない話を聞いている気がしている。


実の娘の事は大切だが、それ以上に父親とされる人が嫌いであり、相続の問題も母親を通り越し、母親の代わりに僕になるような手続きをしている。


母親は涙を流していた。


「お父さん。こんな娘でごめんなさい。私にも理由があるの。広治だけは大切にするから。全て受け入れるから、大丈夫だよ」


しばらく沈黙のあと、おばあちゃんが口を開いた。


「あなたが選んだことだから、応援はできないけど、私たちは幸せになることを願っているのよ。辛い話はここまで。これから来月の5日まで、大切な時間にしましょうね。」

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