第9話

街は、クリスマスムード一色になっていた。


年末になると心が踊る反面、慌ただしくなる。


心が踊るのも、慌ただしさ、から来ていて、実は心なんて踊っていないのではないか、なんて思っている。


初めて満額ボーナスをもらったから、皆に何かしらのプレゼントでも渡そうと思っていたが、今回のクリスマスはそういう雰囲気ではなかった。


渡してもいいのだけれど、なんとなく、渡さない方がいいと思っていた。


いつも、僕はそうだ。


なんとなく雰囲気が悪いのだけを感じてしまい、良いとされることをしないことがある。


12月始めの土曜日、3人で食事をすることになった。


3人というのは、母親と、父親とされている人だ。


11月から、母親に、会ってほしい、と言われていた。 


実の父親と会うことに嫌な思いはしなかった。


「一緒に住む前に広治を会わせようと思うの」


おじいちゃん、おばあちゃん、母親との食事中に母親が言うと、


「俺たちは反対なのは変わらない。1月から、言った通り引っ越すからな」


なんとなく、家族がバラバラになるのは知っていたし、そういう雰囲気だった。


ただ、それが、もう決まっていて、しかも、1ヶ月、2ヶ月先の話しになるなんて、聞いていなかった。


いや、聞くチャンスはいくらでもあったけど、僕が逃げていたのだろう。


そして、まさか、すぐには、家族がバラバラにならないだろう、なんて、物事をポジティブに考えてしまっていた。


これが結果だ。


「こっちは広治次第だけれど、来年春くらいには一緒に住めたら、と考えているの。おじいちゃん、おばあちゃんは一緒に住めなくなっちゃうけど、そんなに離れていないところに住むから、ね」


「そっか、、、」


僕は、もし、僕が父親を拒絶したらどうなるのだろう。


また4人の楽しい暮らしに戻るのだろうか。


いや、僕がこの先結婚したら、4人の暮らしはなくなる。


でも、結婚しなかったら、、、。


いや、父親が、もう悪い人でなくなっていたら、全てがうまく行くだろう。


まてよ、今の話だと、なん駅か離れているだけで、おじいちゃん、おばあちゃんには会いに行ける距離だ。


もし、母親が離婚していなかったら、そういう環境だったはずだ。


いや、まてよ、、、


僕は頭のなかで否定、肯定、ネガティブ、ポジティブを繰り返していた。


出てきた言葉は何もなかった。


いつもそうだ。


ひとつの会話のなかで色々な会話を思い浮かべて、色々な考えをしてしまっているが、出てくる言葉は一言、二言だ。


そして、今日は、相づちだけだった。

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