55話 既読スルー


 キャンプから数日後、佐伯と二人で行く花火大会の日付が決まった。

 夏も終わりの8月下旬。

 玉里から言われたあの言葉が胸に突っかかっていたが、そんな状況でも花火大会へ足を進める。


 孤高の美女・佐伯雪音と二人きりで花火大会に行くことになるなんて、数ヶ月前の自分からは想像できないことだ。


 全てはあの一本のお節介limeから始まり、一緒に文化祭実行委員を務めたり、焼肉に行ったり、家でタコパをやったり。


 まるで友達……いや、一応、佐伯と俺はお友達だったんだっけか。

 佐伯は俺に興味シンパシーを持っているらしい。

 それは俺も同じなんだが……これは言わないでおこう。


 佐伯との待ち合わせ場所である駅前へ到着すると、花火大会へ向かう客たちが通りすぎるのを見ていた。


 浴衣を着たカップルが行き交う。

 俺は特に浴衣とかは着なかったが、佐伯からなんて言われるだろうか。


「それにしても佐伯……遅いな」


 集合時間になったが、佐伯はまだ来ていない。


 いつもなら集合時間の数分前に来て「遅いわよ大狼くん」と言ってくるのに……。


 俺はとりあえず「佐伯、大丈夫か?」とlimeを送って静観しようと思ったが、送った瞬間にlimeに既読がついたのだ。


「あれ? なんだlime見てたのか」


 遅刻する旨をちょうど今limeに書いていたのかもしれない。


 そのlimeが来るのを待っていたが……。


「……来ないな」


 佐伯の既読がついてから全く返信が無い。


「これ、既読スルーされたってこと、か?」


 これまで俺には既読スルーをしなかった佐伯から突然の既読スルー

 どうして急に佐伯は既読スルーを。


「……まさか、何かトラブルがあったんじゃ」


 俺は真っ先にそこから走り出した。


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