54話 素直になりたい


 キャンプの疲れ(身体的にも精神的にも)かもしれないが、俺は家に帰ってきたらすぐにベッドへ身体を投げた。


「ねーねー古徳くん寝ちゃうのー?」


 やっぱり自分の部屋はどこよりも落ち着く。


「古徳くんの部屋って、相変わらずエッチなものとか全然無いよねー。つまんなーい」


 昨日のテントは佐伯が隣で眠っていたからか、全然落ち着かなかった。

 にしても次は佐伯と花火大会か……いつ行くか決めとかないとな。


「ちょっと古徳くん! 女の子部屋に連れ込んどいて、無視しないでよ!」


 ベッドに横たわる俺の足に、白のワンピースを着た玉里が座ってくる。


「連れ込んでねえし、お前が勝手に俺の家までついてきたんだろ」

「あれ? そうだっけ?」

「あのな……キャンプも終わったんだから自分の家帰れって」


 俺は身体を起こし、伸ばしていた足に座っていた玉里を退け、ベッドに座る玉里の横に並んで座った。


「だってキャンプの時に古徳くんと二人になれなかったしー」

「それは、自業自得だろ。あんな勝ち目のない勝負挑んだり、佐伯たちを呼んだり」

「じゃあ古徳くんは、みんなを呼ばない方が良かったの?」

「そ、そういうわけじゃ……」


 玉里はベッドから立ち上がると、クルッと回ってワンピースのスカートを靡かせる。


「あたしは楽しい事が大好きだから。佐伯ちゃんや町張ちゃん、あと、初めましての美代ちゃんも、今回のキャンプに来てくれたから楽しかった。それに、嫌々来る古徳くんと二人きりじゃ、絶対楽しく無かったし」

「嫌々って……まぁ、否定はできないが」


 玉里は「でしょー?」と笑った。

 そりゃ玉里のキャンプ計画はBBQ3連発とかビーチフラッグとかイかれてるし、二人きりだったらもっと嫌だったのは確かだが……。


「あたしね、今回のキャンプは古徳くんと二人きりで一緒にいたいって思うより、古徳くんの楽しそうな顔を見たいって思ったんだ」

「俺の楽しそうな顔?」

「もちろん古徳くんがあたしのこと大好きなのは分かってるけど……実際のところ、古徳くんはあたしといるより他の子と一緒にいる時の方が楽しそうだからさー」

「いやいや、楽しいというより、気苦労しか無いだろ」

「本当は楽しかったくせに。町張ちゃんと砂浜デートしたり、美代ちゃんに抱きつかれたり、佐伯ちゃんと一緒に寝たり……この女たらし」


 玉里は頬をぷくっと膨らませながら、真正面から俺の方を睨みつける。


「全部お前が仕向けたんだろ! 俺の方からは何もしてねえからな」

「まっ、そうなんだけどね〜?」


 玉里は再び、ベッドに座る俺の隣に座り直すと、話を続ける。


「あたしは、本当の古徳くんのことをもっとみんなに知って欲しいから。古徳くんが捻くれてるってみんなに勘違いされて欲しくない」

「よ、余計なお世話だ……」


 俺のことなんか知ったところで何の得にもならないし、誰も知りたいとは思ってないはずだ。


「あたし知ってるよ。昔、あたしがイジめられた一件から、古徳くんが周りに敵を作らないようになったってこと」

「…………」

「古徳くんはかなり面倒な性格してるけど、本当は優しくて、人のことを思いやれる男の子だから。みんなはそれを知らないだけで」

「ち、違う! 俺はただの捻くれ者で」

「ううん、古徳くんは態度が冷たくても、心が温かいから」

「温かい? どこが?」

「いい加減さ、自分のことくらい分かりなよ」


 玉里はそう言って、ベッドから立ち上がり、自分の荷物を持って部屋のドアノブに手を掛けた。

 

「以上っ、アドバイスはここまで」

「あ、アドバイス?」

「もしフラれたら……責任持って、あたしが古徳くんを養ってあげるっ」

「は?」


 玉里は意味不明なことを言い残し、俺の部屋から出て行った。


「またねー古徳くん」

「お、おお」


 マジで何だったんだよ。


 ✳︎✳︎


 キャンプが終わってバスで駅まで帰ってくると、私と姉さんはマンションに帰る前に、近くにあるファミレスへ立ち寄った。


「姉さんはいつも通り、チキングリルとビーフステーキでいい?」

「……今日は、チキングリルだけにしておくわ」


 様子がおかしい。

 いつもの姉さんなら、この質問に「は? その倍に決まってるじゃない」って言うのに。


「姉さん、なんか様子おかしい」

「……気が触れてるとでも言いたいの?」

「違う……いつもよりポワポワしてる」

「し、してないわよ」


 やっぱり古徳とエッチしたのかな?

 ……古徳がお兄ちゃんになるのは、嬉しい気もするけど、なんか、ムズムズする。


「美代? 早く呼び出しボタンを押してもらえる?」

「……うん」


 二人が付き合うのは、素直に応援したい。

 だって姉さんは古徳のこと好きだし、古徳も多分……好きだと思うから。


「美代、ちょっと聞きたいのだけど」

「なに?」

「引っ越す時に、母さんが持って来た浴衣って、クローゼットにあるわよね?」


 あぁ……なるほど。

 私の天才的思考が、姉さんのソワソワの理由を理解した。


 きっと姉さんは、古徳と二人でお祭りに行くのだろう。

 それで浴衣が着れるか心配なんだ。


 きっとお腹周りは大丈夫……でも。


「姉さん……今から食事制限しても胸は小さくならないと思う」

「なっ!」


 その後、姉さんから色々と訳を聞いて、私はブラで対応しようと姉さんに提案した。


 古徳と花火大会……いいなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る