53話 帰りに咲いた恋の花
——早朝
「こっけこっこー! 朝だよ二人ともー!」
……ん?
テントがバサッと開かれる音がして、入り口付近に寝袋で寝ていた俺は、目を覚ました。
奥で寝てる佐伯もぽやーっと目を細めながら身体を起こした。
「……道藤さん、朝からうるさいわよ」
寝起きだからか、佐伯はやけに機嫌が悪そうだった。
「昨夜はお楽しみでしたねぇ?」
「何も無かったっつの」
俺がそう言うと、玉里がテントの中に入って来て、俺の耳元に顔を近づけてくる。
「……声、聞こえてたよ♡」
「それお前の幻聴だからな」
俺は玉里を押し退けてテントから出る。
早朝の空気は澄んでいて、高台にあるキャンプ場から見渡せる海はとても綺麗だった。
「……古徳、おはよう」
俺が海を見渡していると、ショボショボした目をして、ショートヘアに寝癖のついた美代がやって来た。
美代は、胸元に猫が描かれた白の半袖Tシャツを着ており、スク水の名札と同様に、猫の顔は当然横長になっている。
「美代……寝癖酷いぞ」
「……レディに身だしなみを指摘するのは失礼」
「それは自分の身だしなみを整えてから言えっての」
「むぅ……じゃあ、寝癖直してよ、おにーちゃん」
「おに⁈」
「昨日姉さんとズッコンバッコンしたなら、もう私と古徳は義兄妹」
「し、してねーよ!」
「絶対した。古徳から姉さんの香水の匂いする」
「そりゃ……隣で寝てたんだから、少しはするだろ」
「……えっち」
「はあ⁈」
俺たちが朝から言い合いをしていると、美代の背後から、3人が来た。
「おはよー大狼。BBQの準備するよー」
「あ、ああ町張……ん? 待て、3食連続でBBQってイカれてるだろ!」
俺は嫌だったが、最終的に佐伯姉妹に押し切られ、3食連続BBQになった。
✳︎✳︎
テントの片付けを済ませ、キャンプ場の責任者に挨拶を済ませると、俺たちは荷物を引きながら、バスが来るまでの時間、バス停から海の方を眺めた。
「あっという間だったね? あたしはもっと遊びたかったなぁ」
「海とかBBQ、キャンプもしたんだからもう十分だろ」
玉里はバスの待ち時間も物足りなさそうに頬杖を付いていた。
「道藤さん、また来年も来ればいいじゃない?」
「そうよ……またたくさんお肉を食べさせて頂戴」
「左に同じく」
町張が玉里をフォローする横で、佐伯姉妹は肉のことしか考えていなかった。
「そうだね……また来年も来ようね?」
玉里は俺の方を見ながら言う。
なんで俺に向かって言うんだよ。
「俺はいいから女子4人で行けよ」
「そんな寂しいこと言わないでよ古徳くん! また佐伯ちゃんと同じテントにしてあげるからー!」
「一人用のテントが用意されないなら、なおさら行かねーよ」
「むぅ……佐伯ちゃんからもなんとか言って!」
「どうして私……」
急に指名された佐伯は
「……来なさい大狼くん。あなたがいないと、つまらないから」
佐伯は横目でチラッと俺の方を見ながら言う。
「佐伯ちゃんがデレ……やっぱ二人って昨日ヤッた?」
「「やってない」」
くだらない会話をしていると、バスが到着した。
帰りのバスも一番後ろの横長の席に座り、左から美代、町張、玉里、俺、佐伯の並びで座った。
美代と町張は相変わらずよく分からん学問の話で盛り上がっているようで、玉里は俺にちょっかいを出してきて、佐伯は車窓から景色を眺めていた。
「いやぁ、古徳くんが楽しそうで良かった」
「……俺は、別に」
「楽しそうだったわよ」
佐伯は窓の方を見ながら会話に入ってくる。
「佐伯ちゃんも楽しかったでしょ?」
「……そうね。ありがとう、道藤さん」
「なんか佐伯ちゃんの性格丸くなった?」
「佐伯は元々が尖りすぎてたんだよ」
「うるさいわね、あなただって前まで尖ってたじゃない。それなのに女子をたぶらかして」
「そんなことしてねえって」
「まあまあ二人とも」
珍しく玉里が俺たちの仲裁に入った。
ちょっと佐伯と気まずい空気になっちまったな。
そう思った矢先、俺のスマホにいつも通知が入る。
『さえき:それで、花火はいつ行くのかしら?』
怒ってるんじゃ無かったのかよ。
トンネルに入った時、窓の方を見る佐伯の口元がニヤッと笑っていたのが見えた。
佐伯はみんなに聞かれないようにわざわざlimeしてきたのだ。
『また誘う』
それだけ送って、俺はバス中で瞳を閉じた。
2日だけだったけど、すげぇ疲れた。
佐伯と花火……か。
—————
《あとがき》
イチャイチャしやがって(もっとやれ)
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